第201話【自暴中の決起、終わりを願う子供達】
そこには、ギルドの保険医カズちゃんがいるはずだったんだけど、違う女子がいて、
「留守番任されてました」
って言ってからペコっとお辞儀して、僕を見る顔は金髪碧眼の少女。ああ、覚えてる。
「キャサリンさん?」
「北藤イネスです、真壁秋さん」
と大きくて切れ長な饐えた目で言われてしまう、ごめんなさい。そうだったそうだった、どっから出た、キャサリン。
僕、確かこの前、この子に家の玄関の前で負けたんだった。そのキャサリン、じゃなかったイネスさん、今ギルドの人なんだね、で、どうしたんだろ?
「何かな?」
するとイネスさん、一番奥ばった薄いカーテンで仕切られてる場所まで案内されて、カーテンを引くと、そこには桃井くんにそっくりな人が上半身だけ起こして僕の方を見てた。
「では、榴さん、真壁秋さんです、連れて来ましたよ」
と、彼女に向かって、そして今度は僕に向けて、
「この方、榴さんです、真壁さん」
と紹介してからイネスさんは出て行ってしまう。
出がけに、
「何かあったら声をかけてくださいな」
と同じ室内で離れて場所に置いてある椅子にかけて待機して、僕について来た他の人達もそこで止めていた。
ジッと見られてる。
その表情は、捕まってしまって悲し、って感じじゃなくて、極々普通の表情だ。
前の服装とは違って、明らかにギルドで与えられた服を着てる。服って言ってもTシャツだし、『寿都』ってプリントしてある。誰だろ、これ選んだの? センスいいね。
だからだろうか、ちょっとリラックスした雰囲気。
僕はなんとなく知り会いのお見舞いに来たって感じになった。
そしたら、その子、榴さん、桃井くんの顔して、全く違う声で、
「見下げられてるみたいで嫌な気分よ」
と僕の顔を見て言った。
あ、ごめん、と思って近くの丸椅子を引っ張って来て座る。
同じくらいの高さになったけど、まだ僕の方が若干高かった、でも榴さんは自分の言い出した事だけど気にして無い様子で、
「始まったでしょ?」
と言った。
なんの事だろうとは思わない。今、このギルドの周りで行われている事だって思ったから頷く僕。
「もう止まらないわよ」
表情のなかった榴さんの唇がちょっとだけ歪んだ。でもそれは笑顔とは言い切れない。
この返事のいらない僕への問い掛けというか宣言というかそんな言葉はそれで終わって、榴さんはジッと僕の顔から視線を僕の手に持つものに移す。
僕の手にはいつもの剣が握られてる。
いつものように抜き身で持ってる。膝の上に乗せてる感じかな。
前からそうだけど、最近、この剣さ、特に僕の元を離れない感じなんだよ。気がついたら学校にも持っていてしまうくらい。持ち歩く時は今の状態で『刃』が出てないから、多分、普通の人には模造剣か玩具剣に見えると思う。学校にも武器持ち込んでる人は沢山いるし、邪魔にならないなら何も言われないから、傘くらいの大きさなら全然許容範囲。
その剣を榴さんはジッと見て、僕の顔に視線を再び移した。
「それ、なんでも切っちゃうって剣ね」
って言ってから、
「私たちダンジョンの物では無のよね?」
っていうから、大柴マテリアル製なので頷く僕。
「ふーん」
なんか、とっても人をおちょくったというか、バカにする見たいな表情と言うか返事をされる。ふふん、って感じだ。
そして榴さんは言うんだ。
「もういいわ」
って、そして悲しいとも悔しいとも、そんな感じは見せずに言う。
「『世界を終わらす人間』って言われてずっと見てたけど、話してみたかっただけだから」
これ、確か春夏さんにも言われてるなあ、まあ、約束だからね。
そして、榴さん、
「さあ、どうぞ」
って言う。
何が? って思った。
そしたらさ、榴さん桃井くんそっくりな顔して、その首まで伸びた髪をかき上げて、僕にその頸とかよく見える用にうなだれる。
「落としてよ、私の役目はもう終わったから、もうバイバイでいいわよ」
と言った。
これってさ、つまりは僕に首切ってって言ってるんだよね? 少なくとも頸のムダ毛を処理しろってことでは無いと思うから、僕にはそんな技術ないから。
当然戸惑う僕。
「どうしたの? それ、なんでも斬れるって聞いてるわよ」
とそのままの状態で僕の方を見て言うんだ。
さも当たり前に、当然の様に、自分を殺せと彼女は命じてくる。
いや、僕、誰も殺さないし、だから斬らないよ、って言おうかなって、人払いされた保健室の一角で、じっくりと言葉を選んでいたよ。