第74話【札来館からの使者】
(サブタイトル「札来館」→「札雷館」) 本日もまた札雷館の人に呼び出された。
結局な早朝だったから、今日は午後からダンジョンだから、都合はいいんだけどね。
春夏さんの都合なんだよね、午前中は用事があるみたい。
一応はさ、こうして呼び出しに応じてるのは、春夏さんの人間関係だからさ、無下にはできないし、前回のことがあるし、彼らが回復魔法が必要なほど倒れてしまったのは僕の所為だし、少しは気になったんで、安否の確認も含めて、ついでに「じゃあ、それで」(『かかって来い!』的な意味)なんて言った以上は逃げずに、顔だけは出すけど、って感じで呼び出されたところにノコノコと行って見ると、そこには冴木さんが1人、銀色の金属ケース? かな? 妙に長いケースを持って待っていた。
知らないメールアドレスは冴木さんだった。
春夏さんに聞いたんだな。早速、闇討ちかな? って思ったけど今日は冴木さん一人だから違うみたい。
そんな冴木さん、人混みの中から僕を見つけるなり、
「あ! 真壁くん、こっちこっち」
妙に高いテンションで呼ばれて、またノコノコと近づく僕だったりする。
ニコニコしてて、この前の冴木さんなんだけど、あれ? なんだろう、腕にっていうか体全体で、大事そうにケースを、ジェラルミン、ほら、映画やドラマで、銀行から持ち出される札束の入ったケースみたいな細いけど厳重なケースを持ってる。
一瞬、お仕事の途中かな? だって、ほら冴木さんて本職が警官さんだし。
でも、本人はいたって平素で、屈託のない普通の笑顔でニコニコしてるからさ、僕の気にしすぎだよね、って思って、僕は進められるまま席についた。
今日は駅前通りでも大通駅寄りの地下の真上の歩行空間の休憩所、ミスドとか、コンビニとかある場所にいる。
大きな地下道の真ん中がオープンテラスみたくなってて、通路として利用する人たちが両端に流れを作ってる感じかな。
ベンチにかけると、僕の前に立って、冴木さんは、
「この前は本当にごめんなさい」
と深々と頭を下げた。
もう直角に近いよ。
「いや、別に冴木さんが悪いわけじゃないでしょ、やめてくださいよ」
と思わず、僕は立ち上がって、彼女の肩を持って、かたくなに下げる頭を、視線を、折れた上半身を引き上げてしまった。ってくらいの低身低頭……、平身平頭だったかな? ともかくそんな姿勢だったから思わず実力行使に出てしまったよ。
いい大人が僕みたいな子供に向かってここまで頭をさげるなんて、あの時は彼女の立場なら仕方がないとは思うし、第一、彼女は僕を心配しての行動だった、だからいくらでも言いようはあるだろうに、彼女の誠意に本当にびっくりした。
彼女はきっと誠実な人なんだな、って思った。
そうだよね、君島君さん(人間的な距離を置くためにわざわざこんな仰々しい呼び方をしてみた)みたいな人ばかりでは無くて、半分(希望的観測)は冴木さんの様なマトモな人なんだよね、札雷館。
「でも、君の武器とか折ってしまって、とても失礼な事を言っていたみたいだし」
「それこそ、冴木さんが謝る事じゃあないですよ、僕はもう、怒ってないし、それよりも、冴木さんの立場の方は大丈夫なんですか?」
って心配してしまった。そうだよね、君島君さんみたいな武闘派(ヒャッハー系)がいるんじゃ、いつどこで事件を起こすかわかったもんじゃないからさ。
すると、彼女は、なんか甚く感動した様で、大きな瞳からこぼれそうになってる涙を指で拭いつつ、
「ありがとう、真壁くん、こんな私を心配してくれるんだね」
って言って、
「君島くん達みたいな子は、稽古で1週間くらいは足腰立たない様にしておいたから安心して」
と本当にいい笑顔でおっしゃられた。
そうなんだな、この人、常識とか精神構造とか割とマトモだけど、能力的には春夏さん側の人間なんだな。
僕が心配するだなんて、おこがましい行為なんだろうなあ、なんて思っていると、
「あのね、真壁くん、今日呼び出したのは他でもないの、君にこれを受け取って欲しいの」
と、ずっとその抱えていた、細長ケースを僕の方に差し出す。
ほんと、自然にスッと出されたんだ。