第194話【異造子との攻防】
戦い始めて、改めて思うけど、今更かよって思うけど、この人結構背が大きい。
僕に果敢に挑んで来るのは、見た目の僕より年上っぽい感じ。姿かたちは普通の、年相応の男子大学生な感じかな? でも若干だけど、あのイケメン乱暴者な春夏さんの知り合いで札雷館の人よりは、顔がどこか子供な感じがした。
剣を持つ僕の間合いで戦ってるけど、その外から距離も詰めずに大きいのがゲイン、ゲインと上から入って来る。長いなあ、手、足もだけど。
武器とかもってないから腕でそのまま殴りかかって来るんだけど、僕の刃で弾いている音が肉を叩くというより、金属を弾いている音に手応えだよ。
前の異造子さんは、悪魔の花嫁のリリスさんみたいに爪だったから、この人たちも個人差とかあるのかも。
そんな事を考えていると、このノッポの異造子さん、ちょっと笑ってる。
その目がさ、ちょっと普通の人とは違う、敵意があるからかな、蛇とかトカゲとかその辺に見えるけど種類からすると悪魔の花嫁さんのリリスさんの瞳に近いものがある。様子を見ている僕の顔を見て、その異造子さん、ニヤって笑ってんだ。
余裕って顔し出した。
まあ、僕、今、防戦一方だしね。手が出せないって思われてるのかも。
「真壁!! 何やってるのよ! 油断しないで!」
ギャラリーの中から、僕と異造子さんが戦ってる周りを取り囲む人の輪の中から、葉山が叫んでる。
いや、別に油断はしてないし、今の事をちゃんと考えてるよ、油断て言うならこんな状況で、今日の夕飯は何かなあ、とか考えてしまう事でしょ? あ、でもちょっとお腹空いたかも、「今日の夕飯とかなんだったけ?」って思わず吹き飛ばされた先が葉山がいたんで聞いてしまった。
「ほら! 油断してる! 今日は豚丼とかにしようって案が出てるけど、ねえ?」
ってしっかり答えて、葉山は隣にいた薫子さんに尋ねていた。そうか、今日も母さんいないんだな、で彼女達が調理担当なんだな。
「卵も余ってるからな、温玉乗せにしようかと」
え? マジ?
「俺も豚丼食べたい」
って急に目の前というか比較的近い低いところから声がして、見るとどこに居たんだよって突っ込みたくなるタイミングで茉薙が言っていた。
しかも位置が、僕と異造子さんの間。
今、鍔迫り合いみたいな格好になってる状態での間に入って、三人でピタピタになって本当に物欲しそうに言うからびっくりだよ。
すると、流石に保護者の雪華さんが、
「こら! 茉薙!」
で、異造子の人の、
「なんだ! こいつは!!!」
がほぼ同時だった。
もちろん茉薙が反応したのは珍しく怒鳴る雪華さんの方。茉薙、わかりやすくビクッとしていた。
「いや、だって、豚丼………」
茉薙は悲しそうに呟く、おおっと、存在自体を無視されている異造子さんの攻撃、下から来たよ、弾いておこう。
「なあ、俺もいいだろ?」
食い下がる茉薙。僕を見上げる目は必死だ。
「人様の家の御夕食に………、そんな卑しい事言っちゃダメでしょ!?」
だいぶ離れた位置で雪華さんが叫んでる、ちょっと恥ずかしそう。
うん、そうだね、でも今はそこじゃないよね、怒る所。
「いいよ、茉薙、食べにおいで、いいよね?」
葉山が言う。でも育ちの良い雪華さんは、
「そんな悪いです」
って一応は断るんだけど、
「大丈夫だ、材料は問題ない、お米も『きらら397』だから丼物に合うぞ、美味しいぞ」
って薫子さんが言ってた。
あれ? 今、家のお米って『ふっくりんこ』じゃなかったっけ? 二種あったのかな?
すると、スッと僕に忍び寄る影。
「お屋形様の食されているお米については、ななつぼし、ゆめぴりか、おぼろづき、八十九、ほしのゆめ、きたくりん等、その副菜にあった厳選された物を多数用意されておりますゆえ、ではごめん」
と家の食料事情を良く知る忍者、蒼さんはまたスッと消える。
そっか、そうなんだ。
「貴様、ふざけてるのか! 一体なんの話をしている!」
とか言って強撃して来る。
僕のお腹に張り付くようにしてる茉薙をそのままに受けて、と言うか茉薙をサンドイッチの具みたいに挟むパンの僕らは、なんとか、とうかおかしな攻防を続ける。
「何って、お米の話だよ」
と素直に答えた。そんな最中、お米の話なのにパンであるサンドイッチを想像してしまった自分がちょっとだけおもしろいな、って思ちゃった。
「舐めてるのか!!」
「いやいや、お米は舐めないよよく噛んで食べないと、お米は88回噛んでは大げさだけど30回くらいは噛まなち食べないとダメだよ」
「ふざけるな!」
って言うから、
「大切な話だろ!」
って言い返した。
「秋先輩、私もご一緒して良いですか?」
って小さい声で、それでも届く声で雪華さんが言うから、
「うん、良いよ」
って言っておいた。茉薙も大丈夫なら雪華さんも大丈夫だろう。
「秋くん、私も」
もちろん春夏さんもOKだよ、みんなで食べた方が楽しいものね。
「良いよね?」
って葉山とも薫子さんともなく聞いてみると、
「女の子が多い方が用意も後片付けも早いから、私は助かるわ」
って言ってる。
そうか、じゃ、サクッと倒して、家に帰って豚丼食べよう。