第191話【穏やかで緩やかな返却】
つまりは冬の凍結路面に最新のスタットレスタイヤみたいな関係が今の僕らと彼女達なのかもしれない。
冬の凍結路面、絶対に滑らせるんだから、なアイスバーンが彼女達で、年々、その凍結路面に適応して良い感じになって進化するスタットレスタイヤが僕ね。
今回のハーレム婚の件だって、瞬間衝突事故みたいに起こった、言ってみれば集団ヒステリーみたいなもので、普通に考えれば、一軒の家に沢山の女子に男子一人ってありえないと思うんだ。
現実に可能なのは、桃井くんみたいな稀有な例だけで、僕みたいな凡人というか、普通の人にとってありえない話だと思うよ。だいたいうまくいくはずもないからね。
だって、葉山はいつも怒ってるし、蒼さんも無言のプレッシャーが凄いし、雪華さんなんてある常になんらかの形に沿う様にしてくるし、ガチでみんなそれぞれが違う大型野生動物の捕食者みたいで、逃げられないルートみたいなのが用意されてる気がする、というか、小動物の本能としてそう思う。
結論から言うと無理だ。
絶対に無理。
僕は桃井くんみたいにそんなに器の大きい男じゃないからね。
今後、いつの日にか春夏さんと付き合って行くとして、一人がいいんだよ。
だから絶対に無理。
あれ?
なんで春夏さんが出た?
んー?
僕は春夏さん好きだよなあ。
でも、今まで付きあうなんて、特にこんな話が、結婚とかの話が出てきた今、どうして僕は自分の心の真ん中に春夏さんがいるんだろう?
いや、好きだよ、春夏さん。
ものすごい好き。
絶対に好き。
でも、あれ?
なんでだろ?
こんな話になる前にはこんな事を考えなかったなあ。
ちょっと変だ。
でも僕は、昔から春夏さんと結婚するって言ってたんだよ。
僕は絶対に春夏姉と結婚する、お嫁さんにするって、言ってたなあ。確か春夏さんのお母さんもそんな事言ってた。
ああ、言ってたな、だって春夏姉、強くて美人だったからね、よく面倒見てもらったし。
あれ? この記憶は?
なんで、開示されてるんだろ?
「秋君、全部は無理だけど、ちょっとづつ返すからね、びっくりしなくていいんだよ」
って春夏さんが言って来る。
その言葉を聞いた僕は、ああ、そうかならいいんだね。ってそう思って安心した。
よかった、もうその時が来た、とかもうそんな時間? って焦ってしまったよ。
「もうね、私、私になって来たから、昔の春夏の記憶は秋君にちょっとづつだけど返すの、秋君いとっては大切な思い出だから」
と春夏さんは言った。
僕は春夏さんとそんな会話をした。
そして、納得した。
そんな僕と春夏さんの会話が終わるのと同時に、
「秋先輩!」
僕の耳元では雪華さんが叫んでいた。
「ああ、ごめん、なに?」
って言うと、
ジッと雪華さんは僕の目をおそらく真剣に見つめている。
あれ? なんか僕、雪華さんを怒らせる様なことしたっけ?
例のスパイダー雪華さんは禁止ワードに入れてるか最近使ってないしなあ。どうした雪華さん、ちゃんと口に出して言ってくれれば何がどうい言う理由でも僕はいつだって謝るよ。
ジッと見つめる雪華さんの目はちょっと潤んでる? え? 泣きそう?
「だから、ちゃんと口で言って聞かせないと無理だって言ったでしょ、真壁に察してとか手ぶらでドラゴン退治に行く方がよっぽど現実味あるから」
「うう………………………」
なんかいつの間にか葉山と雪華さんだけで僕の話題らしい内容な完結していた。
なに話してたんだろ? って言うか何かの遊びだったのかな? まあ、二人とも頑張ってくれてるから息抜きは必要だよね。よかった、こんな僕も役には立ってるみたい。