第176話【結局、全滅、世界蛇】
本来ならこの瞬間、積極的に手を出して行くべき所だけど、僕の命令待ちしてくれてたみたいだったから、そのまま僕の背後に下がる藍さんだ。
僕は、未だに疑心暗鬼と行った顔をして僕の顔を見つめるフアナさんの顔を見て、
「大丈夫だよ、フアナさんとサーヤさんに危害を加えるつもりはないから」
ともう一回言う。
まだ疑ってるって表情のフアナさん。
「フアナ、ここは秋様の言う事を聞いて」
と桃井くん。
「ほら、大丈夫、武器は置くからね」
って言って、床に突き立てて、そのまま一歩下がる。
すると、ようやくフアナさんの、まんま敵対するラミア的な恐ろしげな表情が、若干いつもの顔に戻った、そんな瞬間。
「真壁秋!」
って言いながら、僕の陰から、多分さっきまでフアナさんの背後にいたと思われるサーヤさんがナイフ程度の短剣を振りかざして飛び出して来る。
なるほどね、この人もネクロマンサーだから、桃井くんと同じ事ができるんだね。って感心する僕と、襲いかかるサーヤさんの間に当たり前の様に藍さんが入って、サーヤさんは簡単に手から刃物を取られて、組み敷かれ床に倒される。
「おのれ! くっそう!」
悔しそうに叫んでる。
確かにサーヤさんの襲撃は有効だけど、藍さんとかクラスになると、この距離、陰から僕の体までの距離があれば、対応が可能なんだよね。間抜けに刃なんて振らしてもらえない。
結局はこの人って、ネクロマンサーとしては強いかもだけど、純粋な至近距離での闘争になると、藍さんクラスの敵ではないんだ、きちんと手加減された上で倒してるから。
そして僕は尋ねる。
「ねえ、桃井くん、ここってサーヤさんの部屋?」
すると桃井くんは、
「サーヤ………」
と藍さんに押さえつけられるサーヤさんを見て心ここにあらずって感じでつぶやいている。
「桃井くん!」
ちょっと急いでるから、
「は、はい、なんでしょう?」
「ここってサーヤさん一人しかいないの?」
「いえ、いつも信者の側付きが一名いるはずですが………」
ざっと見渡す。ラミアさんがこっち来てくれたから、部屋の奥の奥まで見える。一応、机の下とかも見て、隠れそうなところはきちんとチェックする。
あ、着替えの入ってるところとかは藍さんに任せたよ、その辺は気を使う僕だよ。
で、全部探し終えた上で、
「いないね、逃げちゃったかな?」
って、サーヤさんに尋ねると、
わかりやすく僕から顔を背ける、あらら、嫌われちゃったな、いいけど別に慣れてるけど、でもなんだろう、既に治ってるって思ってた心の傷がちょっと痛い。
でもまあ、ここに尋ねて来た最大の理由だから、ちょっと話してもらわないと困るんで、
「逃したの?」
って尋ねると、再びわかりやすく顔を背ける。
「サーヤ、いい加減にしないか、秋様が尋ねてるんだ、もうお前に選択の余地なんてないんだ、正直に答えないか!」
桃井くんが怒鳴る姿なんて初めて見た気がする。
多分、あんまり怒ったりってしない人だから、余計にサーヤさんには効いたみたいで、ちょっとガッカリした顔をして、
「逃げたのでしょう、知りませんが」
と曖昧なことをいう。
うん、これ重要。
「逃した訳じゃないんだね?」
ほんと、ここ大切だから二度聞いてみた。
僕がジッと見つめるとサーヤさんは、
「そんな時間なかったわ、だってほんの数分でこのザマよ、抵抗する暇もなかったわ」
わかった。
僕はちょっと待つ。
だとしたらそろそろだから。
でも、すぐだった。
蒼さんが部屋に来る。
「引っかかりました、今、紺と交戦中です」
紺さんに引っかかったって事は裏側だね。
「ちょっとここお願い」
っと蒼さんに伝えて、言って、僕はこの建物の裏側に急いだ。
ほんと急いでよかった。
裏手に回ると、紺さんピンチな感じだった。
学芸会でやる幽霊かよ、って姿の相手がガンガン紺さんを責めてる。多分、相手も必死なんだろうとは思うけど、エゲツない攻め方してる。
紺さんは防戦一方で抑えてる、僕は慌てて相手との間に割って入る。
「大丈夫?」
「申し訳ないっす、力不足です」
って紺さんには珍しく弱音吐いた。いいよ、十分、加減してねって言っておいたから、紺さんにしても十分な力を発揮してない状態で僕を待ってくれてた訳だ、ごめんね、で、ありがとう。そしてそのまま紺さん戦線を離脱。
「手伝う?」
いつの間にか春夏さんが来てくれてた。「ううん、いいよ僕一人で十分」って答えると、春夏さんも離れてくれる。そして、そんな会話が聞こえたのか「チィ!」って大きく舌打ちするその声が聞こえた。
頭からカーテンかよ、って言うくらいの大きな布をすっぽり被るようなその姿は、ここから姿を見せない様に離脱するつもりだったらしい。もうこんな姿でバレバレだよ。
さて、
「降伏するつもりはないみたいだから、ひとまず倒すよ」
一応は本人に尋ねておく。もちろん相手は答える筈もないんで、その沈黙をもって返事に返させて頂くって、そのまま一度大きく弾いいてお互いの距離をあけてから、彼女の出方を待った。