第172話【ともかく、僕は運営側へ】
ああ、そうか、だから『秋の湯』もあるんだな、って納得しちゃったよ。ってかタダじゃないじゃん、すっかりしっかり僕出汁になってんじゃん。等価交換じゃん。いや、精神的に渡すお釣りの方が多い気がするけど、考えない考えない。考えたら叫びだしたくなる。
今度、松橋さんや高和さんに会ったらその辺きちんと聞いておかないと。
なんか好き勝手にされてどす黒い感情が湧き上がるものの、
「私も買ったよ、予約もしたよ秋くん」
って春夏さんが1ミリも疑問も感じてないお日様みたいな笑顔で言うから、ちょっと心がフワッとして、まあ、いいかなって気持ちになるから不思議だよね。
うん、じゃあまあいいかな。
で、話はちょっとすっ飛んでしまったけど、たぐり寄せるように元に戻すけど、
「その、外に出たモンスターから生まれた人って何人くらいいるの?」
すると、桃井くんは、
「確認できているだけで全部で12名です」
「見た目普通なんだよね?」
「ええ、そうです、社会に溶け込んでいたらわからないです、僕も会った事が無い人もいます」
今、わかってるのって桃井くんとサーヤさんだから、残り10名がダンジョンから外の世界に出ているって考えると、結構骨の折れる話だね。頑張るけど。みんなが敵とは限らないけど。
「そっか」
ちょっと途方も無い話になってきたなあ、って思っているところに、
「お屋形様」
とまるで耳打ちするみたいに蒼さんが話しかけてくる。
「どうしたの?」
「このような不確定要素についてご報告するのは憚れますが………………………」
いつもにも増して真剣な眼差しだからしっかり聞かないとって思って、
「うん」
って返事したら、
「いえ、以前、この札幌市内の中高学校で不審な動きが………」
どうやら蒼さん達が看過できない事態がダンジョン外でも起きてるみたい。って思い至って、でもちょっと同時に疑問というか質問というか、ええ? 蒼さん達ってどこまで調べてるの? ってか、僕を中心に警備とかしてくれてるみたいだけど、札幌市内まで網羅してるって事かな?
でも、まあいいや、ともかく事態の解決の為に既に物事は進行しているって事だね。
少なくともここにきた事で、桃井くんの心配は少しは緩和されたみたいだし、このまま世界蛇もどうにかしてしまおうと思う。近いうちに早速行動しよう。
そんな事を考えてると、いきなり真希さんが、
「で、アッキー、お前、本当に何も衝撃とか受けてないんだな」
って言われるから、
「いや、結構受けてますよ、早く手を打たないとって」
「いや、そっちじゃない、このダンジョンの事だべ」
「ああ、運営側ってやつですか、いいですよ」
「麻生でも、この現実を受け入れるのに一週間はかかったけどな、雪華もな」
って真希さんは呆れる様に言う。
「いや、だって実際そうだって言う物を、見て触れてしまってる物を否定しても始まらないじゃないですか」
そんな僕の言葉に、真希さんは、
「うん、そうだべ、そう、あいつもそう言う奴だった」
ってどこの誰かわからない人を引き合いに出して納得してた。
「秋さんって、器がでかい小さいじゃなくて、器そのものが無いんじゃ無いかって、最近はそう考えてますよ」
って角田さんが言った。
え? つまり僕の心は無限大って事? いやだな、それほどでも無いよ。
「収まるべき枠が無いって、要するに節操が無いって、褒め言葉じゃないからね」
いい気分でいるんだから葉山は余計な事言わないでよ。
ちょっと気分を害する僕は、思わず春夏さんを見るといつもと変わらぬいい笑顔だよ。
ホッとしてる僕は、桃井くんのついでに今日は思いがけないダンジョンクリアーだったな、ってせめて日付くらいは覚えておこうって思うけど、葉山や薫子さんがいるからそれもいいやって思った。
運営側に回るって一応は覚悟はしてるけど、正直今のところが何もわからないから、わかった時でいいやって、無責任に考えている。
あ、けど帰りは温泉に寄って帰ろうって、それだけは心に決めて
る僕だったよ。
それにしても、北海道ダンジョンの目的の一つが訓練施設だとして、僕達は一体なんの為に怖いモンスターに慣れたり、戦ったりしてるんだろ?
ここに到達して、一応の目標達成はしたものの、根本にはまだまだ疑問は尽きない。
参加者と言われるダンジョンを彷徨き回るだけの存在から、『運営者』に立場を変えるってのはわかるんだけど、それでも、ダンジョンウォーカーには変わりないから、そこはいいんだよね?