第160【最後の扉へ】
ダンジョンが、世界が僕を中心に回っているってのは大げさだとしても、少なくとも僕が桃井くんを手放さない限り、ここに積極的に巻き込まれて行こうと思う気持ちは失わないでいる。
「秋様には全く関係のない話かもしれませんよ、いえ、あったとしてもこれは僕の問題であって、秋様には関係の無い話が元になってるんです」
とか、本当に切なそうにこっち見て言うから、僕も言い返した。
「葉山助けてくれたじゃん」
それは、桃井くんにとって、ちょっと基軸のズレた話で、僕が絡んでいたから積極的に絡んでくれたって事実だけで十分なんだよ。
恩を返すとか、そんな簡単な話じゃなくて、今こうして渦中にいる桃井くんだからこそ、あの時、あの場所にいられたんだと思うからさ、だからこれは僕にとってその時から連続した話なんだ。
その上で、桃井くんが僕に隠していることがあって、それって決して良いことでは無いにししても、いまのところ伴って来る結果が全部OKだから、この先、例えば桃井くんが僕の敵だった、とか、全部騙していた、って言う話であっても、まあ、そりゃあ事情があったんだねえ、くらいの物だと思うから、もしもその種の問題だとしたら、そんなに深刻になる事もないんだけど、こう言った僕の心情とかこちらから言い出すと、変に気を使われてしまいかねないから、こちらとしても出方を待っていたんだけど、やっぱりどっかの時点で、無理やり話聞いて、強引に介入してった方が良かったかな?
僕と桃井くんの沈黙というなの硬直。
まるで、互いに次の一手となる発言を出したら終わってしまう様な、そんな雰囲気。
「あの、秋様………」
って桃井くんが何かを言いかける、その時、その言葉を僕は最後まで聞いてはいけない気がしたんだ。だから、
「ダメだよ」
って、僕にしては珍しく否定から入ってしまった。
いや、だって、桃井くんの顔がさ、何を言いたかなんてわからないけど、これって、僕の為にならないっていうより、きっと桃井くんの為にならないって気がしたから、先に口を突いて出てしまったよ。
何を言いたいかなんてわからないけど、そんな顔して言う言葉なんてダメに決まってる。
すると、意外なところから声が出た。
「真壁がダメって言ったら、もうそれは強制になるんだからね、ここから桃井くんは、もう真壁の言うことに逆らえないよ、私たちが臣下への発言ってそう言う意味を持ってるんだから、ここで交渉終了だよ」
って葉山が言った。そして薫子さんも頷いていた。
ああ、そうか、この人達、聖王様に賢王様だったよ。
そんな事を自覚っていうか、知った僕は、
「あ、でも桃井くんの好きにはして良いんだからね、その上で何か困った事があって、それが僕にどうにかできそうもない事だとしても言っては欲しいんだ」
ちょっとおかしな言い方になってしまったけど、僕の言いたい事、伝えたいことはそれだけなんだ。
「わかりました秋様」
と桃井くんは言った。
そして、恐らくは何かを言いかけていたみたいだけど、そのままその言葉を飲み込む様に、
「では、次に会うのは『最後の扉』の向こう側で」
と言って、ぺこりとお辞儀をして、その場から立ち去った。
その時には僕には最後の扉の向こう側なんてあるの知らなかったからさ、ちょっとポカンとしてしまったんだよね。
「葉山は何か知ってる?」
って尋ねてみると、普通に首を横に振って、
「最後の扉への到達条件は満たせるとは思うけど、今だにその部屋には辿りついてはないわ」
って言った。そして薫子さんも、
「そうだな、私も行けるとは思うが、そこ行くための要件は全てクリアーしているとは言い難い」
と言った。
そうか、条件とか要件とかあるんだ。
でも、
「明日行ってみない?」
って言ってみた。
「真壁がいいなら、ここで一つ区切りを迎えるのもいいかもしれない」
って葉山が感慨深く言った。
以外に葉山は最後の扉にはたどり着いていないみたいだった。実力的には誰より一番近いところにいたのに、葉山曰く、あまりそこへ意識が向かなかったらしい。つまりは僕と一緒でダンジョンを楽しもうってつもりだったみたいなんだね。
そして、蒼さんもだった。
『黒の猟団』時代から、ダンジョンでの戦いに明け暮れるばかりで戦いの為に階層を深めても、そこへたどり着くと言うか目的はなかったらしい。当時の蒼さんらしいといえばらしいよね。
「お屋形様に同行いたします」
と蒼さんの方は快諾だ。
そして、薫子さんの方とはいうと、
「工藤さんに聞いてみないとな」
とか言ってた。
忘れてたけど、そうだった。薫子さんってギルドの人だったよ。だから僕らに付き合う義理はないんだけど、真剣に考えてる。温泉に引き続き付き合ってくれるみたいな試行錯綜中な薫子さんだよ。