第159【桃井君の事情】
いつもの様に普通にダンジョンに行って、今日はかなりの深階層の深部に行って、今日はここまでだね、って、魔剣と変なローブみたいな物を見つけて、一応、角田さんに鑑定してもらうんだけど、それなりに上位な品物らしいけど、その性能は僕らの持っている装備に比べて、それほど大した事の無い内容だったので、そっと元の場所に戻して、そのままダンジョンの湯に入って、帰って来た。
そのまま角田さんの転送魔法で出口まで来たから、今日は家に帰ってからのお風呂は無しになって、妹にブーブーと文句を言われたけど、今日は薫子さんと一緒に入ってもらったよ。
ちなみにダンジョンの湯ってのは仮の名称で、現在、愛称を募集中らしい。
そして何より、深階層だけでなく、各階層にこの入浴施設を置けないものかギルドを中心に検討中らしい。ちなみに浅階層ではスライムの森がその選考地域に上がってるらしい。多分、真希さんとか言い出したな。ギルドの本部にはシャワー室しかないからなあ、いっその事、北海道ダンジョンの呼び名を『北海道天然温泉ダンジョン』に改名しようなんて不届きな者まで現れているらしいよ。
で今は深階層にしかない温泉に寄って来た僕らなんだけど、本当に立派な建物になっていて驚いてしまったよ。
ガチで有名温泉の湯殿って感じで、併設されてる宿泊施設も、セイコマートも立派でホットシェフついてるし、ここまでの流通をD &Wの協力で確保して、品物も豊富で新鮮だった。
何より驚かされたのが、男湯と女湯の他に『秋の湯』が存在していて、どうやらそこは僕専用で、この施設に温泉を引いて行く上での、バンパイヤロードであるキリカさんの出した条件の一つだと言う事だ。
いや、まあ、結局は角田さんは女子と一緒に温泉施設はNGらしいので、1人で入ったんだけど、多分、男湯と同じくらいの広さがあって、これを1人で使わせてもらえるなんて贅沢だなあ、って思ってたら、既に中には此花姉妹と、キリカさんが入ってて僕の後に普通に春夏さんと葉山、そして、今日は一緒じゃなかった筈の蒼さんまで入って来たからびっくりした。
本当に普通の流れで入ってたからビックリっていうか、驚く僕がおかしいのかな?って錯覚してしまうくらいの普通に、怒涛の流れで入浴してた。
なんでも、彼女達は僕の身内なので僕も同然だから、この『秋の湯』に入る権利があるらしい。
なるほど、え? どう言う事? でもまあ、なんとなくわかるけど、心の奥底では疑問は消えてくれないけど、まあいいや。彼女達がそうだって言うならそれを否定すると言うか、できる僕では無いからね。いいんだ、みんなが笑顔なら。
そんな温泉の思い出も新しい時間帯に、僕の家にこのところさっぱり姿を見せなくなっていた人物が姿を現した。
とても深刻そうな顔をして、そして深い陰りを表情に乗せて彼は僕の家を訪ねて来たんが。
「遅くに申し訳ありません、秋様」
と言うのは、最近、あのゾンビ騒ぎから全く姿を見せなくなった桃井君だった。
まあ、後は寝るだけだから別にいいけど、と思って、
「いいよ」
とだけ言った。
すると、桃井くん、
「どうしても秋様以外の人には聞かれたくなくて、こんな時間まで押してしまいました」
と言った。
言ったんだけど、僕の後ろには葉山と薫子さんがいて、その上には天井に張り付いてる蒼さんもいるんだけど、それはいいのかな?
「実な秋様に相談があります」
と意を決した様に桃井くんは話始めた。
いいんだ、彼女達がいても。彼女達はあくまで僕の身内だからって考える人間の1人なんだな桃井くんは。
その辺の事情についてちょっと詳しく知りたい気持ちもないわけでも無いんだけど、ここは話の腰を折っちゃ悪いんで、黙って話を聞くことにする。
「勝手なことを申し上げます、僕、このパーティーから外れたいのです」
「だめ」
即断即決で返事してしまったよ。
びっくりするのは桃井くんで、
「どうして………?」
って言うから、
「だって、問題たくさん抱えてるでしょ?」
「だから!」
「だからダメなの」
ともかく、桃井くんの抱えてる問題は多分、桃井くん1人では処置できない段階まで来ているのはわかるんだ。だから、こっちに割りを振らない様に、桃井くんは僕らと袂を別つつもりでいるのもわかる。
それに、多分、もうこれは桃井くん1人の問題ではなくなってる気もする。
下手をしたらダンジョン全体に波及しているって気がするんだ。
仮に今の軸が桃井くんだとしたら、僕らはそこから降りてはいけない。
まさに、今、このダンジョンは僕近くで周り初めているのは理解している。