第157【ブレイドメーカー④】
誰か1人くらいは止めてよって思うんだけど、きっと僕らダンジョンウォーカーも、武器や人の生命を研究する学識者も、倫理って低いんだろうなあ、ってその辺はちょっと似てるなって考えてしまう。言ってしまうと命が軽い。
で、結局始まってしまう訳で、この体育館の真ん中付近にで互いにそれなりの距離を取って始める僕らだ。
どちらとも無く、普通に見つめ合って、いつの間にか始まっていた。
何度か弾き合って、距離を取って、接近して弾き合って、また距離を取る。
あれ? これって葉山の戦い方じゃないな、あ、そうか僕を暖気させようとしてくれてるのかな、未だやる気になってないって思ってるのかな? うん、そうなら、ちょっと直線的な動きをやめて、緩慢に円を描くように横に動く。
葉山も合わせてくれるから、そうなんだな。
じゃあ、と思ってこっちから仕掛けると、葉山、お前、凄い笑顔だよ。
一撃を二連で難なく弾かれる。
うん、そうだよね、本当にそっちのマテリアルブレードって守りに特化してる形だよ。
見た目に両手剣て、攻撃特化に見られがちだけど、両手に剣を持つ意味って防御の意味合い大きいから、特に僕らの様な強靭で強固な刃なら結構無茶な攻撃をその細い剣で受けられる。もちろん、葉山の場合は綺麗に弾いて流すから、力は刃に残る事はないけどね。
「やっぱり真壁は強いなあ」
って葉山はいうんだけど、こっちのセリフだよ。
たったこれだけのやり取りでもわかる、本当に葉山は強い。
以前の茉薙と一緒だった頃の葉山の方が強いって思われがちだけど、今は普通の人になってしまったから弱くなってってそう考える人は多いんだけど、強いよ葉山は。
多分、僅差だろうけど蒼さんよりも強い。たぶんだけど、それでも最接近戦にあるとやっぱり蒼さんかなあ、でも今、武器とかないから、やっぱり個人としてのスペックでいうなら頭一つ抜けてる感じかな。
しかも、最近この子、聖王様になって、専用の武器まで使いこなせる様になってるから僕らにもなかなか見せないポテンシャルに至ってはそれ以上だよきっと。
なんて事で探りをいれる様な中途半端な攻撃をしてると、頭の上から土砂降りみたいな斬撃が来た。そのまま距離を取る様に離れようとする葉山は一言、
「それでも真壁にはかなわないんだけどね」
とか言ってくれる、いやいや、気を使うなよ、未だに手を抜いている癖ににさ。
それにこれだけははっきりと言っておくと、あの時、ほら茉薙がいる葉山との戦いの時って、僕が難なく彼女に勝てたのは、彼女が僕に勝つ意識なんてからっきしなかったからだからね。
結局、あの時って、茉薙を思う存分遊ばせてからの自身の死ってのが彼女の望んだ最後だった訳で、それに僕は付き合わされた格好になるんだよな。
つまりは、あの戦いは全部彼女の思い描いたシナリオの上で進んでいた訳で言い方を悪くすると僕はいい様に利用されていた訳だ。まんまと手の上で踊らされていた訳だ、悪女だな葉山。
「失礼な!」
って一撃来た。おいおい、これダメな奴だろ、普通回避出来ない角度で死角から変化して来る。まあ、弾くんだけど。あ、避けた方が良かった?
「あの時は真壁に私倒してもらって、そのままダンジョン最強の地位を真壁にあげようって、そう思ってたんだからね」
「いや、いらないし」
「だよね」
44回打ち合って、離れる。
ちょっと気がついたけど、なんか打ち合う剣の音に変な音混じってない?
いや、特に嫌な感じはしないけど、変な感じ。
カンカンって音に、どう考えても、金属が鳴らせる様な音じゃない音が混じってる。
気のせいかな? って、思わず雪華さんの方を見ると、雪華さんのお母さん、なんか感極まったって顔して、まるで祈るみたいな手をしてこっち見てる。なんだ?
とか気をそらしていると、また土砂降り斬り来た。こっちも押さないとね、押し込まれそうだからね。
それにしても本当に全く攻撃が入るイメージがないなあ。
「それは真壁が私を大事に思ってるからだよ、嬉しいなあ」
って言う。あの時にもそんな風に喜んでたよね。
「でも、今日は真壁は泣いてくれないんだね、ちょっと残念」
やめろよ、恥ずかしいよ、忘れてよ、ゴメン、なかったことにして………。
もう、無茶苦茶に剣を振ってしまう恥ずかしがり屋な僕がいるよ。
「いやだよ、忘れる訳ないでしょ、だから私はいるんだからね、真壁のお陰で私は今を生きていられるんだからね」
「いやいや、それは雪華さんとかでしょ」
って言うんだけど、「それもある」って言ってまた土砂降りみたいな斬撃。
そして、
「私が助かった原因というなら春夏かな」
って言った。
そして、
「あの子はさ、真壁が願うことならなんでもするんだよ、いい事だろうが悪い事だろうが、それがどれだけ人に迷惑になることでも真壁さえ良ければそれでいいんだよ」
そう話す葉山はちょっと悔しそう? うーん、違うかな? どこか寂しそうに僕は感じたんた。