第156【雪華さんと葉山】
いや、特にどんな話をどちらから聞いた訳でもないんだけど、たまには雪華さんが自分のお母さんをみるときの目が、家族のそれに向けられているのとは全く違う気がするんだ。っていうか、今日も、そして今も。
「どうされました?」
そんな事を考えていると、不意に雪華さんから僕の視線に気がついて声をかけられる。
勿論、そんな風に考えているなんて言える訳もなくて、
「ううん、なんでもない」
と答える僕だった。
そして、足に軽い打撃が来る、まあいつものことだけど、
「お前、雪華をジロジロ見んな!」
って茉薙に蹴りを入れられる。
どうやら雪華さんのナイトから危険行為と判断された様だ。
「こら、茉薙、ごめんなさい秋先輩」
って言われるけど、特に謝られる様な事されてないし、そう言われている今もゲシゲシ蹴られてるし、痛くないし。
僕らかしたら普通に戯れられてるんだろうなあ、くらいの感覚だよ。もう全然いいよ。
って茉薙を見ると、
「なんだよ!」
って一旦距離を取って大きな攻撃の準備をするみたいな感じになる。
「茉薙、いい加減にしなよ」
って見兼ねた葉山が言うんだけど、
「静流は黙ってろよ!」
って怒鳴る茉薙に、
「あらあら、茉薙君、お姉ちゃん取られちゃったみたいになってるのかしらね」
ってあくまで他意は無く、年長者として、大人として僕らのそんな関係を上空から眺める様な微笑ましい意見を述べる雪華さんのお母さんの言葉に、
「あ、それで拗ねてるの? そりゃあ、私はもう真壁の物だけどさ」
え? 違うよ。
その発言の直後、雪華さんのお母さんと一緒に僕らを先導して歩いていた雪華さんが、後ろも見ないで、器用に歩行速度を調整して、一番後ろを歩いていた葉山の横にピタリと並んだ。
そんな雪華さんに、微笑みつつ、
「どうかした? 雪華さん」
って普通に葉山は声をかけるも、
「どうでしょう、今後の生活に置かれて、静流さんも、私の家に来ませんか? 茉薙もいますし」
って雪華さんが言い出す。
「だよ、そうだよ、静流、雪華の家に来いよ、いいなそれ、いいよ」
って茉薙もなんか喜びと言うか興奮気味だ。
「うーん、いいかもしれませんね」
ってそんな雪華さんの申し出にそんな肯定的な意見を述べる葉山なんだけど、
「でもなあ、寂しがるといけないからなあ」
ってまるで呟く様に言ってから僕の方を見る葉山だった。
その言い方に、まるで雪華さんが知らない異なる人間関係が、僕と葉山の間にあるみたいな言い方をする、いや、ちょっとやめてよ、僕、今平和に歩いてるんだから巻き込まないでよ。
戸惑う僕に、どこか堂々とした顔をした葉山、それを交互に見て、
「秋先輩は関係ないじゃないですか!」
って珍しく大きな声を上げてしまう雪華さんだ。
うん、ほんと、その通りだよ。
「え? 私、真壁の事なんて言ってないわよ」
ってまるで勝ち誇った様に葉山は言う。
そして、
「ほら、薫子がね、折角の雪華さんからの計らいで仲良くなれたのに、きっと残念がるでしょうから」
って言って笑ってた。
「あ、あー、姫様ですね、そ、そうでしたね、良かったです、葉山さんと仲良くなれて」
雪華さんも笑ってた。
なんだ、仲良しさんだよ、2人して上品に笑って見つめあってるもん。
でも、なんだろう、顔がさ、ってか目が笑ってないんだよなあ。2人とも優等生さんを突き抜けている様な人達だから、僕の様な凡庸な人間にはよくわからないや。
ともかく、そんな感じで雪華さんのお母さんに付いて僕らの剣に付いての中間調査とやらは以前と同じ様に始まって、いつも通りに、今日は特に何も無く終了した。