148話【北海道ダンジョン温泉慕情 到着編①】
そんな覚悟を決めて、確かにそれらしい場所に僕らはたどり着いた。
とても物々しい扉の前。
もう、お城か神殿って感じの作りだよ。大半は剥き出しの壁ではなくて、岩に埋まってる感じだけどね。
本当に不死の王が佇む場所って言われると、確かにその雰囲気はある。
その物々しい扉の前に立つと、僕が扉を開けるような行為というか本当に特に何をするわけもないのに自動的にゆっくりと扉は外に向かって開いて行く。
その先にあるのは暗い闇。
固唾を飲み込む僕。
その横にいきなり羽ばたきの音が通り過ぎ、二つの飛翔するコウモリかな? が、僕らの後ろから、僕の目の前の闇に吸い込まれてゆく。
いつ、こんなものが僕らの上に飛んでいたのだろう?
いつの間にか僕らは、その不死の王の使い魔であるコウモリに様子を見られていたって事なのかな? だとしたら、きっと全てはそのアンデット王の手の中ってことになる。
だって、平気で迎え入れられているから、油断しているって雰囲気ではないしね。完全に後手に回ってるって覚悟した方がいい。
僕の横に葉山が来た、そして後方の警戒を八瀬さんと咲さん小雪さんに任せて蒼さんもこっちに来てくれた。
大丈夫だ、僕らの方も戦力として十分過ぎくらいある。
この場で何が来てもいい、そう思った時、暗き闇の先、そこに佇む闇の者とも言えるアンデットの王がその存在をあらわに、声を発した。
「あら、殿下ではありませんか?」
突然闇がかき消される。
というか、まるで家のリビングに明かりが灯る気軽さで、室内に照明が灯ったみたいな感じになる。
さして広くもない、でも、まるでお城の謁見の間みたいなゴテゴテにゴシックな作りのその奥の玉座に座る人物は、その周りの雰囲気なんてまるで無視するみたいな、気軽に軽快なステップで、僕の目の前までやってくると、
「殿下、今日は私に会いに来ていただけたのですか?」
って僕の顔を覗き見るみたいに、輝くような笑顔で言って来る。
ああ、そうか、彼女、自分て吸血鬼って言ってたもんな、そうだったんだ。
あれからどのくらい以来なんだろう、以前、ゾンビ騒ぎの時に助けてくれた、世界蛇の人、キリカさんが僕の目の前にいたんだ。
そのキリカさんをグイって僕からあからさまにな敵意をむき出しにして、葉山が割って入ってきた。
「で、何? あんたを倒せばいいのかしら?」
って目が座ってるなあ、葉山、何を怒ってるんだろう?
すると、キリカさん、僕の前にしていきなり片膝をついて畏まり、
「いいえ、殿下のご命令ならばどのような事であろうと私は承ります」
と仰々しく言ってから、顔を上げて微笑んでいた。
「キリカさんって、ここを守るエリアボス的な人なんだっけ?」
「ええ、そうですね、この『熱した腑』を守るモンスターに位置付けられています」
「僕達温泉に来たんだけど、戦って勝たないとここを通れないのかな?」
「いいえ、お望みとあらば、私どもは抵抗しません、ご自由に往来ください」
やったー、温泉に行っていいってさ、良かったよ。って思ってたら、いきなり瑠璃さんが、僕の横に立って、
「交渉したいがいいだろうか?」
と突然言い出す。
するとキリカさん、
「何か?」
僕の方に向ける表情とは打って変わって、まるで感情なんて忘れてるみたいな冷たい声と視線で瑠璃さんに答える。
「ここにある温泉のダンジョンウォーカーによる所有権その他、利用について話し合いたい」
とか言い出した。
ああ、そうか、瑠璃さんと桃さんって、用事があるって言ったのはこういう事だったんだ。そうだよね、みんなも気軽に利用できるようになったら嬉しいもんね。
すると、キリカさんは、
「以前それは断っている、ここは譲れない、もしもそうしたいというなら、私達は全力で戦わなければならない、あの『赤鬼』を突破し私を退ける者だけがここへ来ることができる、それが最大の譲歩だ」
と言った、赤鬼ってのは、さっきのジャイアント温泉酔っ払いゾンビのことらしい、対価に顔は赤かったけど、ツノくらいは付けといた方がそれっぽいような、いや、むしろ付けたら付けたで、それもちょっと違うからいいのかあれで、とか考えてしまう。
そして、キリカさん僕の方をちらって見て、
「殿下もそのおつもりですか?」
って聞いて来た。
いや、僕は特にそういうつもりはないんだけどなあ、キリカさんには散々助けられてるし、ここはキリカさんの肩を持つよ。
って思って、
「僕、キリカさん相手じゃ戦わないよ」
っと、瑠璃さんに言った。すると瑠璃さん、ちょっと微笑んで、
「そうだったね、君はそういう人だ、君をこの取引に使うつもりも手段もないな、だから交渉は決裂か」
と、天を仰ぐ様に言った。




