146話【北海道ダンジョン温泉慕情 ちょっと!空気読んでよ編①】
霧散する大型アンデットの代わりに、その床に突き刺さりたたずむような、罪という鎖を繋がれた一人の人物、いや、距離を置いてもう一人。
いつものように、突然に、そして、その存在はさも当たり前といった、厚かましさはまさに威風堂々とした物だった。
「愚王様です!」
「アモン様です!」
咲さんと小雪さんがハシャギ出した。
「王様そろい踏みだね、写真とかとっとくと売れるかもね」
って、八瀬さんも不遜な事を言い出す。まあ、不遜でもないけどでも個人肖像権はちゃんと遵守してね。写真を撮るにはまずは本人の許可だよ。
確かにここに、薫子さんは賢王だし、クソ野郎さんって愚王でしょ、それに僕は一様は狂王とか呼ばれてるし、最近、妹に啓示され任命された葉山は聖王だしね。
「おお、マモン!!!」
って妹も大喜び。
「ブリド、壮健で何よりです」
ってアモンさんも言ってた。
このアモンさん、クソ野郎さんはともかく、僕にだって厳しいのに妹とか茉薙とかには優しいんだよなあ。普通にいいお姉さんみたいな感じだ。
「ん? あれ? 特に修羅場ってる訳でもなかったか?」
って自分の倒したジャイアント温泉酔っ払いゾンビがいた所を見て、今度は僕を見てそんな風に尋ねて来る。
「もう! いきなり何するんですか!」
しかも葉山に怒鳴られてる。
「いや、すまない、私もダメだった、迷いがな、だから助かったのかもしれない」
ってシオシオの薫子さんが、怒ってクソ野郎さんに詰め寄る葉山との間に割って入る。
「なんで薫子が謝るのよ、ちょうどいい敵だったのに、あんなチャンス滅多にないのに」
って、葉山はクソ野郎さんに言い放つ。
本気で怒ってるみたい、
よかった、クソ野郎さん現れなかったら、ノープランで温泉ジャイアントゾンビを倒そうとしていたから、確実に窮地に陥る薫子さんを助ける為に、温泉ジャイアントゾンビを倒していたから、あの怒りは間違いなく僕に向いていたはずだよ。
本当に助かった、ある意味、修羅場ってたのは正しい物の見方なのかもしれない。
すごいね、クソ野郎さんの修羅場センサーは相当に優秀なものなのかもしれないね、本当にそんなものがあるかどうかわからないけど。
で、クソ野郎さんとはいうと、
「なんだよ、俺何かやったか?」
ってなんとなく周りの空気を見ると、まあ、怒ってるのは葉山だけで他はぽかんと見ているって感じで、咲さんと小雪さんはちょっとテンション高いなあ。
「今、薫子はなんとか立ち直らせようって、みんなで頑張ってたのに、ちょどいい敵ってもうこれからは現れないんですよ」
いや、頑張ってたのは葉山だけでさ、他はみんな暖かくはあったけど静観してたよ。
そんな葉山に、
「いや、いい、いいんだ葉山静流、すまない、愚王、私が不甲斐ないばかりに」
って葉山の無礼をクソ野郎さんに詫びていた。
「そこで謝るのも違うでしょ、薫子は悪くないから、ここは場の空気も読まずに突然現れたこの人が悪いんだから!」
葉山の怒りはなかなか治らない。
そんな怒り心頭な葉山に対して、アモンさんがとうとう口を開いた。
「事情を知らなかったとはいえ、いかに聖王といえど、我王に対して、あまりに無礼ではありませんか?」
静かに、そして確実にアモンさんの声は重く強い怒気を孕んでいた。
その迫力の前に、さすがの葉山も自身の行いを省みて口を閉ざす。
確かに、まあ、うまくいかない事への八つ当たりみたいな、そんな心情も葉山にはあったのかもしれない。
クソ野郎さんはあくまで、どうしようって考えてる僕と、未だ自信が持てない薫子さんの間に入って、目の前の敵を倒してくれたに過ぎない。
普通に考えれば、ジャイアントでそれでいてゾンビなんて、エルダー級以上の敵だからね。助力は当たり前ってか、積極的介入は歓迎するべきで、そこに怒りをぶつける筋合いはないよね。
ってアモンさんの怒りも最もだな、って思ってると、
「いいですか、聖王よ、これだけは言っておきます」
と冠してから、
「我王を罵っていいのは私だけです」
って言い切った、アモンさんの怒りを発生させている場所は僕の考えている場所とはあまりにもかけ離れていた。
そして、そのクソ野郎さん当人は、
「まあ、そういう事だな」
って、いいんだ、アモンさんには罵られてもいいんだ、なんだろう、この2人って、未だ関係性が全く見えない。
本当に、三柱神であるアモンさんと指定されたクソ野郎さんって、いつも一緒にいるよなあ、妹と葉山の関係を見ていると割と自由にやってる気がするけど、この2人を見てると本当にいつもピッタリと2人きりだよなあ、特に仲良しって気もしないけど。