143話【ダンジョン温泉慕情 兄の仇だ!編②】
いやいやいや、僕が戦ってるだけって、そんなものが見世物として成立する訳ないじゃん。と言うか、普通に中階層にいけるくらいのダンジョンウォーカーなら、見るんじゃなくて自身で戦う方に趣を置くよね。
「まあ、確かにあの現実離れした戦闘能力は、お金払ってでも見たいって言う人はいそうだね」
とか八瀬さんもいいだした。
「お、クロスクロスも警備に参加してくれそうだね、お礼は弾むよ」
って桃さんが言い出す。
「でも、実際にダンジョンウォーカーに限らず、もっとお客さんを呼びたいなら、普通に家で今日花さんと打ち合ってる真壁を見せた方が………」
心当たりがあるって感じで葉山が呟く。
まあ、それなら普通に家の前で一日何回かやってるけどね、それだって見世物としてはしょぼすぎない? 近所の人は必ず見に来るけどさ、最近は怒羅欣の人も来てるね。
「そんなの、どこの家でも親が元ダンジョンウォーカーで、子供が現役のダンジョンウォーカーなら当たり前のことでしょ?」
って言ったら、
「普通は親子は真剣で打ち合わないから、半径5m以内に入ったら巻き込まれる人が即死するような親子の戯れなんてないから」
ってそれこそ真剣に葉山に言われてしまう。
「いや、それは、ガチでギルドから止められてる」
とちょっと青い顔して桃さんが言った。真希さんあたりかな、何を言われたんだろう?って心配するくらい顔が恐怖で歪んでいる。
「つまりダンジョン内なら、その辺は多めにみてもらえそうなので、後は秋の木葉との落とし所を探って行こうって話でさ、今回の同行にはそんな意味もあった訳なんだ」
と瑠璃さんは改めて言う。
まあ、こんな企画、受け取る僕としてはへー、くらいにはなるけど、そんなんでお金をだして行く人いるのかな?、って思ってしまう。
でも蒼さんは相変わらず怒ってて、
「お屋形様の闘争を見世物にしようなど、まして金を取るなどあり得ない」
と言って、
「あれこそは、芸術、剣心一体の技の冴えてを、公共に晒してなお、好奇の目の前に置くなど、絶対に許さん」
と言い切ってた。
ありがとう蒼さん、蒼さんが止めてくれてなかったら、きっと僕、桃さんや瑠璃さんの言われるがままに、見学者を金魚の糞みたいに連れて歩いては、ガイドさんに説明をされながら、きっと中階層のどっかで戦ってたかもだよね。
本当に最近なら、僕の知らないところで僕についての取り扱いがどんどん決まったり、流れたりで、どうも油断できない状況にあるって事をここで改めて自覚したよ。
本当にもう!、って感じかな。
そんな話をしながら瑠璃さん桃さんと話していると、気がついたら後方まで下がっていて、すぐ近くに、あの咲さんと、小雪さんがいることに気がついた。
で、気がついているから、彼女達を見ているんだけど、彼女達も僕を見ているから、
「強いんだね」
って普通に声をかけたら、咲さんが、
「真壁秋を倒すのは私です!」
って意外に強い言葉出てきた、それに、小雪さんが続いて、
「私が倒すです」
って言ってた。
柔らかく優しくボール投げたら、全力で投げ返えって来たボールの種類が、子供用のソフトビニルから、硬球の強いボールになってたくらいびっくりした。
「優しそうだけど、そんなに強くなさそう」
「強くなさそうでも、なんかズルそう」
って僕を見て身を削がれる程でもなくチクチクする痛みが痒みに変化する程度の敵意を向けてくる。
睨んで来る目とか尖ってる口とかも可愛いけどね、僕、彼女達に倒されちゃうんだ。
まあ、いいけど、いい加減、こう言う扱いにも慣れてきたけど、
その彼女達は、僕の横で寄り添うように歩く春夏さんに気がついて、
「あ、春夏様だ」
「綺麗! 美人!」
ってキャッキャ言ってた。
「可愛いわね、秋くん」
って話振ってくるけど、
「倒すのは私だよ」
って小雪さんが、咲さんに確認してる。
そんな彼女達を見て、八瀬さんが言った。
「ほら、君って、いろんな所でバーゲンセール並みに人に恨み叩き売ってるでしょ、彼女達もそうみたいだよ」
って教えてくれる。
まあ、そういうこともあるよね、ダンジョンウォーカーならさ、でもなんだろう、八瀬さんに言われると、なんか釈然としない。
いやあ、自覚ないなあ。恨みなんていつ買ったんだろう?
「咲ちゃんは、お兄さんが倒されたんだよね?」
って八瀬さんが確認を取ると、咲さん、急に思い出したかの様にシュンとなって涙目になって僕を睨んで言うんだよ。
「はい、もう、心まで………」
い、いや、なんか、その、ごめん、としか言いいようないよ。
話によると、咲さんのお兄さんは、高校生でも全国区な結構な武術家らしくて、僕自身覚えてないけど、どこかで倒してしまったらしく、心って言ってたから、きっとボロボロにしてしまったのかもしれない。
しれないって、ことは、推測の域にあって、僕自身、記憶のカケラにもなくて、本当に覚えてない。




