第140話【北海道ダンジョン温泉慕情 激闘編①】
派手に剣が弾かれる音が響いてる。
「ほら、薫子、もう一回!」
「あ、ああ」
剣の弾き合う音がする中、葉山と薫子さんのそんな声が響いて来る。
今の状況を簡単に説明すると、深階層の深部に到達して、いよいよ温泉への通路、と言うか道に入った所なんだけど、強い敵が立て続けに出てきて、その対応をしている真っ最中なんだ。
相手はコマンド・スケルトン、何やら中階層でも偶に出没するスケルトンさんの最上位種らしい、つまりは一番強い相手で、この温泉ロードにしか現れないんだって。確かに強そうだよね、大きな剣を装備して、鎧着込んでるし、何よりスケルトンさんの概ねを構成するその骨がね、太いんだ。健康で丈夫な骨って感じがするからね。いや健康って、アンデットだけどね、でも中階層に出て来る、普通のスケルトンさんは剣の一撃で骨が折れてしまうからね、そう考えると骨粗しょう症気味なスケルトンさん達だったのかもしれない。
薫子さんの若干だけどヤケクソ気味に振るカシナートなんかゲイン!!って感じで跳ね返してるもん。
骨の健康って大事だなあ、って改めて実感する僕だよ。
そんなことをしみじみと考えている僕に、
「なあ、兄、手伝わなくていいいのか?」
って前の方でそんな健康骨スケルトンさんの団体と戦っている葉山と薫子さんを指して、妹が言った。
「ほら、薫子、何迷ってるの? 振り下ろす剣に自分で疑い持っちゃダメでしょ?」
そうだね、また弾かれるって考えてのリカバリーとかあるなら、その剣は振り下ろすべきじゃないよ、その敵に対して自分の剣刃がそのレベルに達してないって認めちゃってるってことだから、それ以上を超えてはいけない。でもこれって、誰かに教えられてわかる様な事じゃないからな、でも、葉山も必死に薫子さんに教えてる。
とか言ってると、2人の間を突破して、一体の健骨スケルトンさんがこっち来た。春夏さんが前に出ようとする前に、一閃を放つと、スケルトンさんは真っ二つから、骨がバラバラに崩れて倒れる。
「もう! 真壁は手を出さないで!」
って振り向く葉山に文句言われるけど、でもなあ、そんな事言われてもなあ、こっち来ちゃってるからなあ、って言いたいんだけど、ここで今の葉山に何かを言うのは躊躇われる。
だって、結構、キツイ顔して睨まれたからさ、基本僕って怒ってる女の人には勝てる気しないから、それ以前に逆らおうって気にもならないからね、まあ、いいやってなる。
で、その葉山なんだけど、本気で薫子さんに付きっ切りで、時折、健骨スケルトンさんたちに背中を向けてしまうんだけど、そんな状態で相手の方も見もしないで、あの短くて細い僕と同じマテリアルソード使って切り裂いてる。
「薫子、ちゃんと立って、もう一回だよ!」
って指導し続けてる葉山って、本当に強いなあ、って改めて実感する。
僕の場合、剣や相手の意識みたいな物を概ねて感じるけど、葉山の場合は空間そのものの動きみたいな物を理解している気がするんだ。
多分、これって、スキルそのものではなくて、葉山の固定されたスキルを使う上で得られた感覚じゃあないかなあ、きっと僕とは方向性が違う気がする。でもさ、葉山のすごいとこは、そう言う所じゃなくて、そう言った感覚みたいのを押し付け様としないて、きっと理解すれば誰でも出来る事を一つ一つ教えている所だよなあ、さすが委員長って言うか教えるの上手だなあ。
前回のさ、ほら、ティマトさんの外に出す出さないので、一瞬とは言え、薫子さんと敵対関係になったじゃない。
で、その時、薫子さん、僕のかあさんに師事した事でなんと無く技能が向上している気になっていて、これなら僕とも対等に渡り合えるって考えてしまった気持ちを僕がまたバッキリと折ってしまったらしい。いや、だって、薫子さんを怪我とかさせたくないしさ、あの対応は今でも間違ってはないと思うけど、それでもまあ、柔らかい方が傷ついてしまった結果に、葉山、何を思ったかその後、僕のかあさんに直談判したらしいんだ。
「もっと薫子を真剣に鍛えてください」
って言ったらしい。そしたらかあさんは、「鍛えてるわよ」って言ったらしい、でも納得いかない葉山は食ってかかって、「もっと強なりたいって薫子は思ってます、その期待に応えてあげてください」って頭を下げたそうだよ。葉山が薫子さんのために、頼まれたわけでもないのに、深く深く頭を下げたそうだよ。
そしたらさ、かあさんが言うには、
「人ってね、伸びてゆく方向が違うのよ」
そしてこう続けた、
「だからね、戦いって、その長さの方向を競うようなものではないの」
それはわかる。長ければ良いってものでもないし、短いのが悪いって事ではない。