閑話9−8真壁秋ハーレム化に関しての傾向と対策】
生徒も長尾すら帰ってしまったこの広い会場で、壇上で今回の資料を集めていた二肩、に、こちらも残っていた、先ほどダンジョンウォーカーの1人として発言した田丸 琴美が声をかける。彼女もまた残って手伝っていた様だ。
「お疲れ様でした」
すると、二肩は、
「掃除の方は終わったんですか?」
と田丸に尋ねる。
するともう1人、あの武闘派の男子生徒、佐久間が、舞台袖裏から、
「終了です、概ねファンクラブの生徒が片付けてくれていた様で俺がすることは戸締りくらいでした」
と言った。
先ほどとは全く表情が違い、極めて柔和な顔つきな佐久間だ。
「ありがとうございます」
と二肩が礼をいうと、
「佐久間くん、ファンクラブとか言っちゃダメよ、まだどこかに人が残っているかもしれないんだから」
と田丸がたしなめる様に言った。
ちなみに、この佐久間は重度のマッキーファンであり、そのきっかけはかつて札雷館で、真壁秋は全く記憶の片隅にすら残る事もないが、彼にとっては一方向的に衝撃的は出会であり、尊敬する師範である塩谷拓海を瞬殺しかけた真壁秋の剣の冴えが未だその両眼に焼き付いて離れないでいる。以降、信頼する師範代(冴木翔子)の勧めもあって、現在、ファンクラブ会員番号1007号の栄誉を授かる、真壁秋の掌握の効果にハマりまくっている人物であった。
そして、そんな佐久間を指導するのは、ギルドの構成員にして、あの浅階層ラミア事件の時に、あっさりギルドを裏切りと真壁秋に寝返えった真壁秋ファンクラブ初期メンバーとして、後に続々と生まれ続けている多くの真壁秋ファンを導く田丸美琴である。
そして会長を献身的に支え、今回も後始末という地味な作業を引き受ける二肩千草は言わずとしれた多月の分家にして『秋の木葉』の一員でもある。
つまり、会場はこの3名によって、誘導され、あらかじめ用意されていた結論にたどり着いたというわけである。
もちろんそれは、真壁秋の為であり、それは総じてこの北海道に生活する人々の為でもあった。
度重なる真壁秋の自覚の伴わない善意の暴走は、常に人を組織を社会を巻き込み、今のところは事なきを得ているが、未だ成長を続ける真壁秋の規格外の戦闘能力は、いつどこで、大事になってしまうかもわからないのである。
それを先回りして事前に防ぐ、もしくは脆くて壊れそうなものは除外するのが、現在、実行部隊である『秋の木葉』と情報部隊である『真壁秋ファンクラブ』の取り決めであった。
もちろん当の本人である真壁秋はこのような彼等の努力にはまるで気がついていない。それを気取られないのも又、彼らの努力の賜物でもある。
そして今回はそれとはまた別の目的もあった。
「それは大丈夫です、ここに残っているのは、私達と、この会議の警戒に当たってくれた、私達『秋の木葉』だけです、まだ範囲不確定、不明な勢力があります、私達一般生徒も敵視されている可能性もありますからね」
と、いささか緊張した顔で、それでも笑顔を崩さずに二肩が言う。
「これで、マッキーの地上敵対勢力の一掃ができますね」
と佐久間が言うと、
「そうですね、でもこれは、地下組織である世界蛇の地上での行動を知るための手段です、一般生徒からの乖離が目的でしたから、これで署名に記入した人物を洗って丹念い除外できますから、一気に的は絞れると思います」
と、二肩が答える、そして続けて、
「世界蛇でしたか? 唯一、現在、お屋形様に敵対の意思を示す勢力は?」
「正確にはマッキーではなく、一緒にいる桃井茜ですね、彼が困る事はなんでもしたいみたいです、粘着してるみたいに執拗に、まさに『蛇』ですよ」
と田丸が答える。
ここでのマッキーとは、言わずもしれた真壁秋のファンクラブ統一の呼称にして愛称である。
「ギルド情報ですか?」
「ええ、真希さんに許可は取ってます、百目ちゃんからまだ情報は行ってなかったですか?」
尋ねる田丸の問いに曖昧に笑って、そしてその唇を引き締めて二肩は言う。
「世界蛇とお屋形様の対決は迫っています、私達が警戒しなくてならないのは、戦いそのものではなく、再び暴走するお屋形様が蛇を取り込際に、被害が甚大にならないようにする事です」
まるで世界蛇と真壁秋の戦いの結果など見えているが如く、つぶやくように二肩は言った。
「これからはもっと連携も密にしていかないといけませんね」
という田丸に、
「ええ、ギルドの方もよろしくお願いします」
「札雷館以外、北海道部活連も順調にファンクラブメンバーは増えてます、頼りにしてください」
と佐久間も続く。
これらの連携を確認した上で、彼らは再び、普通の生徒に戻るように、後片付けを続けた。何事もなかったように、何も気取られぬように、静かに日常に溶けて行くのだ。
真壁秋が、ノリと雰囲気でテキトーに暴れるその陰で、彼らの人知れぬ暗躍は今日も続けられている。
ガチに彼らは真壁秋の為にという、真壁秋本人にすらよくわかっていない野望の為に命を懸けている。
まさに、斬って屍拾うものはいないのであった。