閑話9−1【真壁秋ハーレム化に関しての傾向と対策】
この所、ダンジョンのあるこの北海道は、ちょっとホットだった。
きっかけは、とある地方出身選出議員の話。
そして、本当はこれ自体あまりダンジョンとは関係ない話。
昔と言うほど遠くない過去、元与党衆議院員であった有力政治家が、ある週刊誌に、女性問題をすっぱ抜かれて、世間にその資質も問われた事件があった。
野党からは責め立てられ、マスコミには追い回され、そんな追い詰められた彼が苦し紛れに放った一言が物議を産み、世間を大いに沸かせて、週刊誌の売り上げに貢献して、あまり無い野党議員の義務や仕事を活性化させ、そして、何より、今まで何もかも当たり前だと、ただ漠然と受け入れていた社会性というか社会的問題を提示してくれた。
彼が指摘され晒された問題とは、妻子を持つ身でありながら、もう一つの家庭ち持ち、婚外女性、所謂愛人がいたという事。
そして、ここ札幌のススキノに愛人である、彼曰く、「どちらの女性も愛している、かけがいの無い人」である、現在の法では認められないもう1人の妻に店を持たせていた事実が公然と晒された時に、こう言ったのだ。
「北海道では一夫多妻を実験的に行おうと、ダンジョン特区があるこの地でならと政令として考えてみた結果だった、個人的には、やましい気持ちは何も無い」
つまりは、北海道だけ『一夫多妻』になるの?的な問題提示て、その時は大いに世間は湧いた。もちろん、そんな事になる筈もなく、多くの常識ある人間が運営する社会においてこれらの考えは大きな危険を孕んでいるのは誰の目にも明らかであり、当然、妄言、戯れ言、言い訳、と受け止められるに留まる。
もちろん、世論の流れが一気に否定に回ると、マスコミからも袋叩きの上に、その議員は辞職、後に離婚して、即に世間お厳しい目に社会を追われ、やがては消えて行った。
苦し紛れの、弁明と最終的に行われた引退会見の席で、続けてその政治家は少子高齢化ならびに、地方の人手不足に言及して、さらには、経済力並びに、俗にいうところの甲斐性のあるものに限っての所謂、一夫多妻制などを導入するべきだとしつこく言続ける始末だった。
それに、とってつけた様に結婚の高年齢化、少子化なども問題に取り上げて、特に北海道の場合、ダンジョンと言う未成年でも、それなりに稼ぐ宛のある環境においては、低年齢での結婚と出産つまり『未成年婚』を推奨、国と道、そして市でそれを推進するべきだと、引退会見の席でヤケクソとは思えない程の熱さで演説よろしくぶちあげたのは、未だ記憶に新しい。
後にこの地方創生大臣の地位にいた政治家は『ハーレム大臣』などと呼ばれ、その年の流行語大賞などに話題を提供するなど、いい意味でも悪い意味でも世間を騒がせた。
それでも、時間が経つとそれなりに彼の考え方にも一定の見方はあるのではないかと言う風潮もチラリほらりと出てきて、何より、ダンジョンのお陰で日々、世間に話題を与える北海道には、他の地域とは比べようも無いほどのリベラルな風潮、つまり多様性も存在していることから、いつの間にかそれほど悪い考え方でも人ではなかった、見たいな空気もあるにはあった。
もちろんそれを積極的に肯定する人間は表向きは皆無ではあることから、一定の常識の範囲で語られてはいた訳だ。
そして、あれから2年、そして同時に近年に控えた北海道知事選挙にその元政治家『ハーレム大臣』が立候補するのでは?、などと言う噂も上がり始めた時、常識的にも倫理的にも誰もがそんな事あるはずも無い、としたところで、それが一般の常識と思いつつも、そう捉えられない、つまり真に受ける人間たちも、この札幌市には複数、確実に存在していた。
つまり、それを現実的に疑える材料がまるでフライパンから皿に移された瞬間の様な高い温度で誰もが知る場所に転がっているのである。
それは、ダンジョンに通うダンジョンウォーカーなら誰もが知り、また近々では巨大なドラゴンを呼び出し、札幌の空を席巻したと噂される人物。
その人物なら、ハーレム婚、そして未成年婚も可能であり、また、その様に行動していると、かつてあった一政治家の妄言を現実化できる可能性が現実味を帯びてくることに危惧し、警戒し、そして何か阻止しようとする人間がとうとう具体的に声を上げ始めたのである。
これは、そんな人々が、起こした事件にもならない事件の話。
「我々は何としても『真壁ハーレム』の完成を阻止しなければならない!」
と拳を振り上げて叫ぶのは、この札幌市の中にあって、1、2を争う程の進学校にして、同じ校内に体育学部を持ち、多くのプロ選手を排出する、小中高一貫校にして、外国学部まで持つ、とある有名私立学校の生徒会会長にして、この札幌市の生徒会組合の組織長でもある、通称、学園組合総合生徒組織組合長、略して、総会長の長尾 浩史であった。