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第134話【札幌の灯りにドラゴン飛ぶ】

 こんなやり取りで茉薙にヤキモチ妬かれるなんて、茉薙も相当に雪華さんに懐いてるなあ、って思うと微笑ましい。ちょっとニヤケテしまう。心配すんなよ、雪華さんは僕のお母さんじゃないよ、茉薙に言おうとすると、


 「あんた、脳ミソ膿んでんじゃない?」


 って、シレッとした目で椿さんに言われて、その後ろでは牡丹さんが苦しそうに笑いを噛み殺している。そういえば、この人たちも人の心とかも勝手に読んで来るんだな、って今更思い知った、今後は余計な事を考えないようにしないと。


 あれ? 今のやり取りで椿さんに怒られて、牡丹さんにウケられる要素なんてあったかな?


 「秋くん、あっち」


 って春夏さんが指差す方向、多分、ティアマトさんのお腹付近に人が集まってる。


 固まる雪華さんと敵意みたいな感情をむき出しにしてる茉薙を置いて、その方向に行ってみる、その間に、あれ? なんでここに土岐がいる、で傍にリリスさんだ、いつの間に来たんたよ、来るならもうちょっと早く来て

手伝ってくれれば良いのに、ってそんな事を言おうと一瞬声をかけようかな、って思うと、


 「邪魔しちゃダメだよ」


 って春夏さんに言われるから、まあ、良いやになる。それに、勘のいい土岐のクセに、この距離いいる僕に気がついてないとか、なんだろう、リリスさんと2人だけの世界が構成されている気がする。


 そして、さらに向こうにかなり大きな人影。どう見ても人じゃないけど、フアナさんだね、こっちもいつの間に来てたんだろう? その隣には桃井くんがいた。2人ともとても穏やかな表情だ。特に桃井くんなんて最近だといつも心配してるみたいな顔してたから、なんだか良かったねえ、なんて思ってしまう。


 みんな言葉も無く、ノンビリと飛ぶティアマトさんのお腹の上に立って、眼下、いやこの場合、目の上、重力波ティアマトさんに向かってるわけだから、頭上になるんだね、ややこしいけど、その上に広がる札幌の夜景を見つめていた。


 そんなに高くないところから見る札幌の夜景。


 高いは高いけど、建物よりは高いけど、その高さがちょうどいいんだよ。


 そうそう、藻岩山とか円山から見る夜景見たいな感じなんだ。光の海にぽっかり浮かぶ島みたいな感じ。その夜景の中にある山から見る夜景。言い方がおかしいかもだけど、こればかりは実際に見てもらった方が早いから、ティマトさんに乗って飛ぶのは無理だけど、藻岩山展望台は通常に営業してるから。この夜景はそこからいつでも見れるよ。


 そう言えば、藻岩山のロープウエイから見るの大迫力だった。


 都市の瞬きが、まるで手の届きそうな、そんな距離に錯覚するくらい近くに見える光の海。 


 近くいる時は、特に何も感じない生活の、いわゆる、今ならLEDな灯りなんだけどなあ、僕は、初めて藻岩山から見た夜景は自分の住んでいる街だってのに、当時の僕は馬鹿みたいに感動したんだ。


 その時は誰に連れて来てもらったんだっけ?


 確か、小さい頃だよ。


 4、5歳くらいかな?


 いつだっただろう?


 ちょっと考え混んでいると、僕の手にかかる優しい負荷が来る。


 ああ、ちょっと歩くのが遅れたね、って思って、一緒に歩いていた春夏さんが僕より前にいる。


 その手を見て、腕を見て、そのまま顔を見る。


 僕の飛散して細切れになって、所によっては沈み込んでいる記憶の中と、今のこの光景が、ガチャリと音を立てて噛み合った。


 ああ、そうか、僕は春夏さんと一緒に藻岩山展望台に来たんだよ。


 そうだよ、あの時も確か、『秋、デート行こう』って言われて、馬鹿みたいにテンション盛り上がっていたのだけは覚えてる感じだね。


 そうだ、あの頃、春夏さんは『お母さん』春夏さんのお母さんだから明日葉さんだね、そのお母さんに勝ちたいって、僕の母さんの所に入り浸ってたもんなあ。


 懐かしいなあ、って思うと同時にザクリとした僕のその思い出を切り取る様な感覚。


 その思いは僕の腕から、手に流れて春夏さんにまるで吸い込まれるよに、いや、なんだ、これ、春夏さんから来たのか? 張り付いたのは、今思い起こしたのは間違いなく僕の思い出のはずなんなでけど、僕はこの感覚を知ってるんだ。そうだった、僕は春夏さんと共有した筈だったんだんだけど、思いが強かった分、そっちに偏ってしまったのだろうか?


 相変わらず、春夏さんは何も言わない。


 だからじゃ無いけど僕も何も聞かない。


 ひとしきり札幌の夜景を見た後、人が集まり初め他ので、少し歩いて夜空の見える場所に回り込んだ。


 まるで、空の夜空を切り抜きたみたいないティマトさんの翼は、空に広がって、大きな自分の体に集る虫みたいな僕らを気遣うようにゆっくりと空を滑るように飛んでいる。

 

 ここから見えないティアマトさんの表情は、ドラゴンだからきっと分かりズラいかもしれないけど、きっと笑ってる。


 どうしてそれがわかるかって言うと、僕の手を引く春夏さんが、僕に顔を向けてないけど笑顔を作ってるからさ、それは伝わって来てるんだ。

 

 空には満点の星。


 地には、人の営む優しい光が満ち溢れて、その間を静かに、そして厳かに、巨竜は飛ぶ。


 ご老公の翼は札幌の空に舞ったんだ。

  

 


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