第133話【雪華さんって、いいお母さんになるよね】
蒼さん、ちゃんと藍さんを寝かして、風邪引くといけないからかな? いたの? って突然現れた五頭さんから毛布もらって、そっ掛けてた。優しいよね蒼さん。仲間思いだね。
それを見ていた紺さんが、「雉も鳴かずば撃たれまいのに………」とか呟いてた。
いや、これって、心配した蒼さんが藍さん寝かしただけでしょ? だよね?
「お館様、こちらはご心配なさらすに、ドラゴン腹の中腹にて、夜景を楽しまれるといいでしょう」
って言う蒼さん本当にフラフラだから、本当に疲れてるんだな、って思って、休んでるのにここ止まるのも遠慮して、って蒼さんなんか顔赤いけど、その心情はわからないけど、空気読んで、立ち去ろうとするんだけど、
「ちょっと待って、牡丹!」
「うん、わかってる」
と言って、魔法をかけてた。軽く手をかざしただけ、あ、無導言だ。相変わらす凄いよねこの姉妹。
うっすらと、青さん達の体が光を帯びて、それが体内に吸収される様に吸い込まれて行った。
「ゆっくり体力回復するから、後でいいから何か食べさせてあげて」
と牡丹さんは蒼さんに告げる。
あれ? これって、ちょっと凄くない?
確か角田さんも言ってたけど、怪我とか治療するとかじゃなくて、失われた体力を回復させる魔法って無いいんじゃなかったかな?
「体力を回復させるの?」
ってもう一回尋ねると、椿さんは、ちょっよ、いやかなり自慢気に笑って、
「そうよ、一時的だけど、体力の前借りみたいなものね、24時間後に食欲魔人になっちゃうけど、元気になるわ、あんたもかける?」
と言った。丁寧に断って、その様子を見てると見る見るうちに藍さんとか、元気になって「うわ」とか「おお!」とか叫んでる。
この魔法、凄くない。って感心してると、
「本来、使うべきエネルギー消費を前借りしてます、だから、時間が経つと本来消費されるべき現在は無いはずの栄養を求め究極状態な空腹に襲われます、枯渇しますから、体を動かすための栄養素が、その為には、食欲旺盛になって、必要な栄養素の他に余計な糖分脂質なども摂取してしまいますから、過剰摂取になって太ります」
と、牡丹さんが教えてくれた。すげえ、マジで諸刃の剣だ。
「ですから、今のうちに何かお腹に入れて置くのがオススメですよ」
って追加で教えてくれるから、
「あ、蒼様、兵糧! 兵糧がありました」
と藍さんが言って、おお、兵糧って初めて見た、現代にそんなものを携行食として持ち歩く人がいたんだって感心してると、出てきたのは普通にカロリーメイトだった、なんだぁって思ってたら、箱に『多月家御用達』って印刷してあったから、なんだろう? オリジナルなのかな?って思って、ちょっと興味あるなあ、って思ってたら、蒼さん、紺さん、藍さんがパクパクと食べる様子を見ていた茉薙が、僕から見ていてもわかるくらいに、物欲しそうに見てるんだよね。
「食べる?」
って4本入りの、余った1本を貰った茉薙、何か感心かって、まず、食べる前に雪華さんを見るんだよ。何も言ってないけど、その目がね、心なんて読めない僕でもわかる、『もらっていい? 食べていい?』って訴えてるんだよ。
すると、雪華さんは、「ありがとうございます」って藍さんに言って、「茉薙もお礼を言いなさい」って言われた茉薙は「ありがとう」って言ってから、貰ってるパクって食べてた。
なんか茉薙、いい子に育ってるなあって感心する。今の一連の動きって、当時、葉山の中にいた茉薙とは思えなくて、本当にすごいなあ雪華さんって思うんだよ。雰囲気も僕なんかよりもずっと大人っぽくなったしね。最近では威厳というか風格まで出てきてる。
それに、同じ茉薙を接するにしても、葉山と雪華さんでは根本が違つというか、アプローチが違うというか、多分、2人とも、茉薙にとっては優しい、姉、いやお母さん的な立場なんだろうけど、優しいのが良いとは限らないって目の当たりにして顕著な例を見せてくれる。甘やかしているだけではきっとこうなならないと思うし、厳しいだけだったらきっと茉薙は雪華さんにこんなにも懐いていないと思う。
うまいうまい言って食べてる茉薙か気になるのか、一口もらって「うわ、芋餅味だ、バター風味だ」って言ってた雪華さんを見て、思わず、
「雪華さんって、良いお母さんになるよね」
って呟いてしまうと、雪華さん急にハッとして、
「そ、そんな、嫌だ、秋先輩、こんな所で………」
とか言って、口にカロリーメイトの粒つけたまま、モジモジし出したから、どうしたんだろうって思ってると、茉薙に蹴られる、痛くないけど、ビックリして、
「何?」
「お前、もうあっち行けよ、雪華に変な事言うな」
とか言われる。ああ、わかるわかる。これ、お母さん取られてしまう的なヤツかな?