第132話【百家が一人、百舌 藍】
多分、彼女達に最後の必死な僕にも悟られない命がけの時間稼ぎと、蒼さんの褐さんの働きかけがなければティアマトさんは外には出れなかった、多分、いや絶対に全力で真希さんは止めに来たと思う。彼女達こそ多分、今回では一番の功労者だよ。
「お館様、申し訳ございません、今回、ギルド長にも悟らせるわけも行かず、本気の蒼でした」
とか言って頭を下げてる。
いや、そうだよね、本当に凄かった、久しぶりだと思うよ、あんなに対戦して考えさせられたのは。攻防は短かったけど、多分、葉山とやった時以来かな。でも、刃も殺意も本物だったけど、でも、なんていうんだろう、それでも戦いにおいての独特のあの雰囲気ってまるでなかったんだよね、絶対に相手を倒すってそんな気持ちというか、悲壮感にも近い無理やり前に出て行く気迫的なものがなくて、なんていうかな、ちょっと危険な物と環境で遊んでる、くらいのイメージ、ああ、そうそう、母さんと遣り合うみたいな感じかな?どかか閉じ篭って無い外に向かってく自由な流れがあったんだ。
「あの強さは反則っすよ、3人なら、『倒す』まで行かなくてもそれなりに押せるって思ってたっす、お館様に怪我させないようにしないとって思ってたっす、思い上がってったっす、全く通用しなかったす、ショックっす」
ちょっと前まで蒼さんその物の雰囲気で姿だったけど今はすっかる紺さんの顔に戻って、愚痴って来る。でもその顔はちょっと嬉しそうなんだよなあ。
「紺、お前、お館様に向かってなんて口を!」
って怒るというか然るべき蒼さんだけど、僕としては紺さんみたいな接し方してもらえる方が寧ろウエルカムなのにな。
「申し訳ございません、以後、教育しておきます故」
とか言い出す。「いいよいいよ」とか「やめて」とか言っておいてから、ちょっとグッタリする藍さんが心配で、
「大丈夫?」
って声を掛けると、藍さん、なんか死んだ魚の眼をしてて、
「私達、地元ではカンストコンビって言われてました、紺先輩と私で、蒼様のいなくなった多紫では向かう所敵なししで、だからダンジョンでも蒼様のお役に立てるって、私が全部出来るって思っていました、そんな驕心、思い上がり、幻想をぶち壊していただきありがとうございます」
って言われた。お礼なんだろうけど、声に覇気も無く顔にも表情がない。
「まだ、この子、現実を受け止められないでいるっす、以前は私と同じくらいの技量だったんったっす、でも私の方がダンジョンに入るのが早くて、そこでも差が付いてしまっていたっすから、多分、ダブルというかトリプルなショックを受けてるっす」
紺さんは藍さんを支えて言う。そんな藍さん呟きの様な愚痴の様な反省の様な言葉は続いていて、
「確かにこれなら、『焔丸』様をお館様に任せたいと仰る大祖母様の気持ちはわかります、一族の反対すごいですけど、私も反対してましたけど、今は大祖母様の気持ちがわかりますから賛成ですけど」
とか言ってる。もう本当に疲れはててて思っていた事全部喋ってしまってる感じだね。
多分、彼女に必要なのは休養だと思う。だから紺さん、そのまま寝かせてあげて。
って思ったんだけど、
「それは誠か? 焔丸もこの地に来るのか?」
とか蒼さんがその話題に食いついていた。
つまりは、その『焔丸』さんと言うか君が、今回来た藍さんみたいに引き続きこっちに来るって話なんだね、誰か知らないけど、多月の人らしいけど………。
「今、その話題で持ちきりですよ」
と言ってから、
「あ、そうだ、後、蒼様が北海道で捕まえた婿殿はいつ本家に挨拶に来るのかって………」
って蒼さんの家の事情なのにどうした僕を見てる藍さんが全部言い切らないうちに、蒼さんの綺麗な当て身が入って、「う」って言って、藍さんは気を失った。
というか意識を絶たれてた。
カックンって感じだった。
どうやら重大秘匿事項だったのかもだね。
蒼さんの、多月さんちの家庭の事情はよくわからないけど、ともかく人の家のことだから、僕がそれについて口に出すってのもおかしな話だから黙ってたよ。