第130話【空飛ぶドラゴンから札幌の夜景】
今回のティアマトさんが大空に舞う騒動。
全部が終わってから何より、言われたのが、かあさんを初めとして、近所の人、おじさんもおばさんも口を揃えて言うのは、「あのばあさん、空に飛べたのかい」ってどこか嬉しそうに言うんだよ。だから、あの空高く、この竜が舞い飛ぶ姿に気がつく人って、これがドラゴンだって気がつく人は多分、この竜が空を飛ぶのを願ってた人なんだな、って思った。
そんな人達はみんなこの時、ティアマトさんを感じて空を眺めたんだ。
多くの深階層へ行ったことがあるダンジョンウォーカーなら、概ねこのティアマトさんのことを知っていて、 元ダンジョンウォーカーな大人の人達も一緒になって、空を見上げてたんだな、って随分後で知った。
『ご老公の翼がついに空に………』って事らしい。
だから、今は大人の元ダンジョンウォーカーの人たち、特に深階層に入り浸っていた人達にとっては感無量な出来事だったらしい。
あれかな? 母校が甲子園行くみたいな話なのかな?
心情的にはわかる様な気がする。
ティアマトさんて、深階層のダンジョンウォーカーには相当の人気があるみたいで、ドラゴンの前に、ダンジョンの深階層に住まう気さくで物知りなおばあちゃんとして知られていたみたい。黒き集刃の人達が髭ねだりにくるくらいだから、とっても良い人なんだろうなあ、あの時は怒ってたみたいだけど。
それにしても不思議だよね。
これだけ大きな竜でさ、クラスにしてハイエイシェントなのにさ、特に目的も持たずにあの場所に、まるで押し込められる様に止まっていたんだから。
普通なら何かしらのアイテム? 言ってしまえば伝説の武器や防具やそれこそチートなアイテムとか守ってるのが普通なんだけど、そう言うの一切無いし。ティアマトさんって何をしていて、なんの為に、あの場所にいたんだろう? ほら、モンスターって多かれ少なかれ目的はあるでしょ、僕らの行く手を阻んだり、何かを守ってたり、各界の境界にいるジョージ達なんていい例だよ。
「秋くん、ありがとう」
不意に、春夏さんが僕にそんな事を言った。お礼の言葉、それがなんで春夏さんからなんだろう?
春夏もティアマトさんには思入れがあるってことかな?
「仲良しなの?」
思わず尋ねる僕に、
「私にとっては親みたいなものだよ、このダンジョンの、この世界の」
と言った。
ああ、そうだったね、と僕は納得する。なんの意味も記憶も介さずに、その言葉の意味がわからない僕は納得するんだよ。そりゃあそうだよね、って、当たり前な事を聞いてしまったって、そこまで思うんだ。
でも、その意味というか春夏さんの本当の正体に繋がるティアマトさんとの関係は今の僕にはわからない。それでも僕は、隣にいる春夏さんの本心からの喜びがわかるし、本当によかったなあ、って思うんだ。
決して口を滑られて訳ではない春夏さんは、ただその星の海に向かっていたその目を僕い向けて笑っているんだ。
だから、今回の事、ティアマトさんがこの札幌の大空を飛べた事ってよかった、それは同時に春夏さんが喜んでくれて嬉しって僕は安心する。
何を間違い、何を正しく行っているかなんてわかりはしないのにそんな風に思えてしまう僕はきっとどこかおかしい。でもそれでいいんだ。ってことはわかってるから何も不満不平も無いんだよ。
「それにしても、私、初めて札幌の夜景とか見たけど、凄いものね」
と言って来るのは、此花姉妹の妹の方の椿さんだ。
今回、ティマトさんをダンジョンから出すのにあたっての一番の功労者だね、本当は難しい魔法の施術で相当疲れているはずだけど、姉妹揃って仲良く手を繋いで僕の方に歩いて来る。