第129話【空を見上げる元ダンジョンウォーカー達】
彼等が『付箋』と呼ばれるマーカーを此花姉妹の命令で、わずかなズレもなく、さらに短時間で、ティアマトさんのいた位置から円山の真下まで、要所要所に貼って、さらにはその場所に誰も立ち入らない様に区画、注意してくれたからこそ、この大きな魔法スキル『シールドイマジン』が効果を発揮する事が出来たんだってさ。
もちろん、これは此花姉妹のオリジナル魔法で、魔法と言うより立体的な結界を必要とする施術で、椿さん曰く、考えてはみたものの、使所も無くて、機会があれば『一回やってみたかった』大型魔法陣らしい。
原理は簡単で、つまり、自身の魔法スキルで追える付箋から、その外にある物を想像するものらしい。イメージするんだって、そこに壁は無く道は限りなく、外はそこに見える。ってそんな詠唱をしていた。
「つまり特定位置を限定してダンジョン(それを構成する物質)を一時否定する魔法って事か、確かにな、そりゃあ可能だよ、ってかこんな事、よく思いつくな」
ってあの神様仏様ゼクト様もかなり驚いていた。
昔も、このティアマトさんを外に出そうとしていた人はよくも悪くも結構な数はいたらしいんだけど、結局、その方法が無くてみんな諦めていたんだって話を僕は真希さんから聞いた。だから出られないんじゃ無くて、我慢してるんじゃなくて、方法がなかったてのが正直な所らしいんだ。
角田さん曰く、このティアマトさん大の質量をいっぺんに外に出すってのが不可能らしいよ、なんでも全体に見渡せる物の大きさしか転移ってできないらしんだ。だから、現時点ではシリカさんの『どこでもド………』じゃなかった、転移ゲートが最大で、それ以上になると小分けでって話になるらしい。
流石にティアマトさんを分ける訳にいかないから、結局はやりたくても不可能だったって事らしい。ティアマトさんも、ここに来るひと来る人にそんなお願いしてたんだな、って思うと、きっと母さんとも会ってるんじゃあないかって、このダンジョンの深階層まで辿りついたダンジョンウォーカーならきっとみんな知っている所謂有名人ならぬ有名竜だった。
そんなことを思ってる僕の耳に爆音が響く。
おお、航空自衛隊の戦闘機だよ、編隊組んでティアマトさんの横を飛ぶんだけど、ティアマトさんの飛び方がゆっくりすぎて、そのまま飛び去ってしまう。でもあれ、大丈夫なんだろうか? とか考えてしまうと、脚をガクガクさせたまま蒼さんがやってきて、
「大丈夫です、大祖母様は絶対です、多分、あれは様子を見に来ただけと思われます」
って言ってた。
多分、各機関のレーダーとかは確実に、このティアマトさんの巨体は捉えているものの、誰もそれを見ないし、機器の記録には残さない。
まだそれほど夜も更けてないから、きっと誰の目にもこのティアマトさんの姿は出てるんだろうけど、不思議と噂にもならなかった。
今日はさ、空に雲ひとつない綺麗な星空なんだよ。
そして眼下には札幌の街に撒かれた星の様な夜景。
まるで光を放つ星の海の中を泳ぐ様に飛ぶ黒い巨竜は目立つ事この上ないだろう。だからきっと下の街からも見えてるなあ、とは思うんだ。
何より、結構な数の人がこの姿を見つめているってのがわかる。
やばいかなあ、って思うけど、決してそうはならなかった。
変な噂とか、そんなものは立たなかった。