第124話【蒼さんの裏切りの理由】
蒼さんがそんなだから二人目も自分の背後にいる人を守ってしまう。
この意識が生まれた時点で、この戦いは僕の筋書きになる。
正面に向かう足を、ちょっとずらすと、蒼さんもズレる。そうだよね、後ろに行かせないって、そうなるよね。で、普通にこの場合、一番弱い所を狙うのが正道なんだろうけど、僕はそうしないよ、だって相手は蒼さんだからね。そんなの通用しないよ、だから逆手に行く。
つまり、僕が狙ったのは、この3人で一番強い蒼さん。
振るう剣が狙うのは3人目、で、出てくる防御の刃は蒼さんの物。
蒼さんが蒼さん自身を守れば、多分、受けきれていたと思うけど、意識を蒼さんに置いて、3人目に形ばかりの刃を向けた所で、蒼さんの鉄壁な体制は、ほんの僅かなズレで、脆くなってしまう。つまり、この横薙ぎは受けきれない。でも流させもしないから、吸い付いた僕と蒼さんの刃の接点を保持したまま、蒼さんは後ろ出なく前に飛ばされる。
「しまった!」
「おおっと!」
飛んでく蒼さんを受け止めるのは角田さん。二つの声はほぼ同時だったから、二人目もこの自体への対処どころか、一人目がいなくなった事にパニクっている。
「うわ、マジッすか!」
とか、すっかり素が出て言ってるので、そのまま抱っこしてスルー。
「いや、秋さん、二人は勘弁してくださいよ」
と言いつつ、角田さんは、僕が投げた紺さんも受け止めてくれた。助かるなあ、クッション、じゃなかった角田さん。
で最後の子。
「ふえええ」
と戦うのも忘れて、棒の様に立ち尽くし、空気が抜けてく様に座り込んじゃった。
会ったことの無い3人目の蒼さんによく似ている人。多分、僕は初対面だと思うけどね。僕は最初から、蒼さんの分身とやり合っていた訳じゃなくて、つまりは上手に一人を演じる3人に攻撃されていたって事だよ。
後で聞いた話では、これ、多月家の方では割と有名な必殺系な技で、この組み合わせは『蒼い三連星』って呼ばれているらしい。これは元ネタ知ってるよ、確か、ジュエル・ストリーム・アタックだったっけ? 全部洗剤の名前だね。本家は確か『グロい三連星』って言われていた気がしたするから、こっちは随分と可愛らしいよね。この場合、誰がオルテガさんなんだろう?
そんな思いを馳せていると、座り込む蒼さんに良く似た人は、多分、腰が抜けてしまったんだろうと思うけど、こんな時だけどきちんと自己紹介をしてくる。関心だよね。
「初めまして、初見、敵対失礼しました、私、百舌 藍と申します」
と言って、もういっぱいいっぱいな顔してるんだけど、ペタンと座り込む姿勢のまま深々と頭を下げてきた。
蒼さんとよく似た背格好で、でも顔はちょっと垂れ目っぽいけど、こうして見ると年相応の女の子だね。
ああ、これで今度はいよいよ真希さんかあ、と、仕方なく覚悟をしていると。
突然、ここにいないはずの人物の声が響いた。
「蒼! こっちはもういいよ、3時間だ、3時間、北海道の空を確保した! ドラゴンでもなんでも飛ばすといいよ」
って声が響いた。蒼さんの胸あたりから。
あれ? この声って、もしかして?
「ありがとうございます、祖母様!」
と言ってから、あ、褐さんの声じゃん。なんか久しぶり、蒼さんのおばあさんだよね、以前一緒に温泉とか道東の観光とか連れてってくれた、多月家の一番偉い人。