第122話【蒼さん 必殺 分身攻撃???】
多分だけど、攻撃は一方向から、同じ手の動きでやって来る。さっきの後ろからのはよくわかんないど、多分、あれに二度目は無い、と、思う。
そんな僕に、
「秋くん、手伝う?」
って春夏さんが聞いて来るんだけど、
「いいよ、大丈夫」
と断りを入れた。すると、春夏さんは、微笑んで、
「秋くん、また強くなってるね」
って言ってくれた。とても嬉しそう。
そうだね、以前よりはだね。
ほら、前に一回、僕はそのまま蒼さんを切り裂いてしまって、危うく殺しかけたじゃない。今は、その轍は踏まない自身があるんだよ。
例えばどんな攻撃をして来ようと、凌ぎきる自信はあるんだ。
本当に、随分余裕出てきた。
とはいうものの、この分身攻撃どうしようかな? って辟易と、タジタジしている僕もいるんだよなあ。
これ、ちょっと制圧難しい奴だ。って言うか、そう言う動きをされてる感じがする。
マトを絞らせないと言うか、まるで時間をかけてゆっくりと僕の行く手を防いでる様な、そんな感じ。少なくとも今は蒼さんの方が有利だから、その理を使って一気に来ればって思うけど、それはなさそう。冷静に、慎重にじっくりと事に当たってるって、だから、薫子さんの時の様に余計な会話もない。やっぱり凄いな蒼さん、純粋な戦闘力なら、多分、うちにいる女の子の中では一番かも。
僕は最大6枚の攻撃を数セット、まるで土砂降りみたいな攻撃を受けながら、今後の展開を考えあぐねいていた。
「上から見ると良く見えるんだけどね、でもまあ、優しくいい子に育ったじゃ無いか」
ってティアマトさんが、一先ず必死な僕を見てそんなノンビリとした物言いをする。
「まあな、そりゃあ、否定しない、アッキーはいい子だべさ」
と真希さんも言う。
「でも境目も節操も無い子だね」
「うん、そうだね、でもそれがアッキーだべさ」
「人もモンスターも、敵も味方も関係無いってのも凄い育て方をしたもんだね」
「そりゃあ遺伝かな? ほんと、よくあいつが『母親』なんてやってるべな、ここにダンジョンがあるくらいの不思議と同じだべ」
「羨ましいかい?」
そして、真希さんは言葉でなく態度で答えたみたいで、僕は、ちょっと蒼さんを対処していて忙しくて、真希さんがどんな答えをしたかわからなかったけど、ティアマトさんが、
「そうかい」
って、納得した様に言ってたから、なんらかの答えを真希さんが言ったということだけどはわかった。
でもまあ、真希さんが参戦して来ないから、ちょっとは助かってるけど、必死だけど、蒼さん強いから、僕もそれなりに、怪我とかさせたく無いからそれなりな対処になる。
って思った時に、横と縦の十字が入って来る。同時に蒼さんの「しまった!」って声。
一呼吸も無い、声にもならない呟きを僕の耳は確かに捉えた。
あれ、蒼さんの声かな? って疑問感じてる場合じゃなかった。
おおっと!
って避けて防いで、あれ?ってなった。
んんんんん???
おかしいぞ?
今のは無いだろ?
いや攻撃の精度とか必殺の威力とか、そう言うんじゃなくて、物理的にありえないんだよ。
一人の人間が振るう斬撃として、横縦の同時はありえないんだよ。短い距離ならそれもあるだろうさ、でも今のは人のサイズの斬撃じゃない。手と足使っても無理。人の体の構造と運動能力の限界で、どうしても時間差になる。どんなにわずかでもズレるはずなんだけど、同時に来た。
しかも、受けた僕の剣に残る斬撃のインパクトの長さが若干、力加減が異なるんだ。2斬撃目は、焦ってるみたい? そんな変な印象を受けた。
分身だからなあ、って思うんだけど、いやいや、ならなおさらありえない。
だってさ、それじゃあ同時に二人蒼さんが存在するって事じゃん。無いでしょ。何度かやりあったことはあるけど、僕の場合、こう言った高度な戦闘技術を体験してるのって大抵母さんだけど、その母さんですら今みたいな変な斬撃は、あたかも同時は見せるような、へんてこな攻撃はありえない。見た目には2体だけど、攻撃はどんなに素早く処理しても2回を僕は認識する。
でも、僕は本当に今の斬撃を同時に印象付けられる様に受けてるんだ。
僕の知る限り、残像は本体を追従する。
だから攻撃は同じ方向で、時間差やズレる程度の差異はあるけど、ここまで方向が、種類が変わるのってまず無い。蒼さんくらいの手練れなら尚更、開き直って押し込む様に来るのを僕は予想していた。
そこで、本当に閃いたんだよ。
蒼さん、上手くやってたけど、もう一人が焦ったんだ。
つまり、
僕は前に出た。
びっくりする蒼さんと、その分身を演じていた人。
まあ、防戦一方だったからね、いや、と言うより僕自身が、蒼さんに対して、真面目に対応しようとしてはいなかったんだから、最も、こう言う攻防になるって、形の上で僕はある意味強制されてたのかもしれない。