第120話【こっちの弟妹は去る】
真希さんが何枚も上手って言うのはわかってるけど、ホントあの人達、何しに来たんだろう?
そんな一連の様子を見ながら、ティアマトさんは、
「あはは、相変わらず面白いね、あんたたちは」
って他人事の様に笑ってた。
「気をつけて、秋先輩、真希さん割と本気です」
っていつの間にかすっかり味方な雪華さんが言うから、
「ああ、うん、そうだね」
って言い方になる。
「お前、雪華が味方してくれるんだから、もうちょっと真面目に聞けよな」
って何故か茉薙にも小言を言われる。
そうしたら、さ、真希さんが言うんだ。
僕等にでは無くて、僕の遥か頭上のティアマトさんに向かって言ったんだ。
「本気だべか?」
つまりはティアマトさんが外に出ると言うことに付いてへの質問だと思う。
「ああ、そうさ、一回くらいはいいじゃないか」
と低く落ち着いたよく響く声でティアマトさんはそう言った。
「今まで我慢できてたんだべ? 今更になってどうしたべ?」
見上げる真希さんの顔は、本当にちょっと困ってた。あんまり見ない種類の表情だなあ、って思った。
そんな真希さんに、
「だってさ、この子達がここにいるって事は、もう終わりの時は始まっているって事だろ?、しかももうそれも末期だろうさ、どっちに転んでも私が外に出る頃にはさ、って話だよ、だからさ、一度くらいは札幌の夜景をこの目で見たいもんだね」
と言った。
「もう、譲る気は無いって事だべか?」
「さあね、」
と言ってから、
「譲る、我慢する、ってのはもう無理かもね、期待しちまったんだ、方法がある今この子達に託すよ」
と静かに言った。微笑んでるのがわかる。そして僕は思う、と言うか確信する、僕はこのティアマトさんのこの表情を知っている気がする。
「大丈夫、ママ、秋くんならやってくれるから」
と、春夏さんが言う。
「そうだね、なら一回くらいはズルしてしまおうかね」
と言った。
あれ?
一瞬だけど、僕には春夏さんとこのティアマトさんがまるで親子の様に見えた。
いや、春夏さんにはお母さんいるけどさ、でも、そう見えてしまったんだから仕方ないじゃん。変な話だけど、錯覚だとは思うけど、本当にそう見えた。
真希さんは本当に困ったって顔して、
「どうするんだい? あんたはダンジョンを作れても、壊す事はできない筈だろ、外に出る手立てなんてありはしないんだよ」
と真希さんは言う。
でも、それは一体誰に向かっての質問なのだろう?
その言葉に多くの疑問を感じた僕は、そのことに付いて聞こうとするんだけど、丁度いいタイミングて、
「待たせたわね、施術は終了したわ!」
とティアマトさんの頭のある遥か上の天井から、聞いたことのある声が響いた。
おお、1時間経ってた、いやちょっと早いかな? くらいのタイミングだよ。
その声の出所を探す僕らなんだけどティアマトさんの大きな体に阻まれてってのもあるけど、ちょっと暗くて天井付近に人影が見えない。
「ねえ、牡丹、ちゃんと下に聞こえているかしら? なんの反応もないんだけど? 聞こえてなかったら私、今のセリフ間抜けじゃ無い?」
って小さく囁く声も聞こえてくる。
これで準備は整ったってわけだ。
問題は真希さんだよね。
ほんと、ちょっとだから、お願い、ちょっと出てくるだけだから、喉までそんな懇願が出でかかる僕だったよ。