第116話【武器を取り、斬り合うことに慣れてゆく僕ら】
確かに僕らはなんの抵抗もなく、普通に当たり前に、当然の様に僕らは自然の流れで戦闘に入ってゆく。
武器を取り、時にはスキルとか使用したりして、モンスターを、時には同じ人間相手に果敢に戦い合う。
そこになんの抵抗もない。
もちろん、稀にいる『ヒャッハー』な人たちは別だよ、あと札雷館とかの変な人達とか、アレで一応、武闘家だからね、そういうのは特別枠として考えてみるけど………。
やっぱ戦わないなあ。うん、戦ってない。平和に穏やかに安心安全に過ごしてる。
でもダンジョンに一歩足を踏み入れるとどうだろう?
僕等は途端に戦いをしてる。モンスターがいるからってのもあるけど、特に僕なんて対ダンジョンウォーカー戦も結構多い。
あれ? なんか変だぞ?
ちょっと混乱する僕。
「ちょっと、真壁はバカでは無いけど頭良くないんだから難しい事言わないでくれる」
ありがとう葉山、失礼だな葉山。
僕を押しのけて、葉山が出て来る。多分、白馬さんとの噛み合わない会話を聞いていられなかったんだろう。
そして、葉山は言った。
「そんなの、気がついている人は気がついているわよ」
その葉山をジッと見る白馬さん、凄い見てる。
「隊長、見過ぎです」
と、三爪さんに注意を促されてしまう。まあそうだよね、女の子だからね、ちょっと失礼だと思うよ。僕も。
「ああ、すまん」
と誰にともなくひとまず謝って、
「君も本州からだろ?」
と言った。
「そうです」
憮然と言う葉山なんだけど、なんか葉山って、初対面の人、特に男の人に対しての態度がそっけないよね。特に僕にはそう見える。
「スカウト組だったね」
と確認する白馬さんは、いかにも考えているって顔で自分の顎を軽く掴んで、
「本州出身者には気がついている人間、その変化に違和感を持つ者も多いのだよ」
と言った。
「追ってさらに追加で調査はしますが、現在わかっている所では本州出身者の場合で特に北海道に来た時の年齢の高さに比例して我々の意見に同意、もしくは、なんとなくそうかな? と考えるダンジョンウォーカーは多いのです」
と三爪さんが追加して言う。
「え?そうなの?」
ちょっと間抜けな声を出して葉山が驚いてる。
葉山は本州出身であるにも関わらず、そう言う事にな気がついていなかったと言うかなんとなく鈍いのかも、葉山自身に事情とかもあったからなあ。
「はい、ですが、それが北海道出身者になると、この変化に気づいている者は皆無で、今の真壁さんの様な反応になります」
え? マジ?って思って、僕も確認しようかと思うんだけど、よくよく考えたら、僕のパーティーって、神様仏様ゼクト様の角田さんは度外視するとして、北海道出身者って少なく無いかな?
あ、でも最近まで北海道を離れていた春夏さんはどうだろうって、見ると、こっち見てニコニコしてる、特に何かを感じてるっていう風もないな。桃井くんの出身地なんて知らないし、
あ、ギルドの二人、ちょっと遠くにいるけど当事者からすかっり外れて遠くにいるけど、水島くんと西木田くんがいたよ、って見ると、水島くん僕の方を指差して、西木田くんも同じく指差して、頷いてるから、僕と一緒ってアピールだよね。やっぱり道内出身者はこんなものかな。
でもそれって当たり前だよなあ、とも思える僕だよ。だって北海道だもの、ダンジョンがあるから、そこで育った僕らにとってはその辺は仕方ないよ。
こんなやり取りを僕の頭の遥か上でティアマトさんは黙って、ドラゴンの表情ってのよくはわからないけど、きっと難しい顔してる感じで見てる。
だいたい言いたいことはわかるけど、もっと搔い摘んで説明してほしい。
「いや、秋さん、わかりにくい事を彼らは秋さんにもわかりやすく説明しているんですよ、掻い摘むと、秋さんにとっては理解し難い話になってしまう事を懸念してるんですよ、言葉に齟齬が出ない様に気を使われているって事です」
じゃあ、何? バカにもわかりやすくって事? それはどうもありがとう。
こう言うありがたい説明をされるたびに僕の心が削れていって感覚は決して気のせいではないと思う。
「つまり、僕たちは驚く程暴力に対して抵抗が無いって事を言いたいんでしょ?」
と言うと、角田さんは驚いていて、なんか拍手もしてる。ねえばかしにしてる? 僕の事バカだと思ってる? そこの桃井くんも、そんなに驚いた顔しなくていいから、ほんとびっくりしたなあ、って顔を無言でしないで、ちょっとイラっとするから。
そして相変わらずティアマトさんは何も言わずに口を固く噤んでこちらを見つめている。
「そうだ、そして、それらが脱し切れない人員は、各階層の境界に配置されたアンデットモンスターによって篩に掛けられている」
と白馬さんは言う。
各階層のアンデットって、多分、『浅階層のジョージ』とかだね。
「我々側の脱落者も、そこで適正を欠いてしまって、振り落とされた」
と白馬さんは特に悲しむ風でもなく言う。
そして、白馬さんは僕の頭上の遥か上にあるティアマトさんを見上げて言った。
「このダンジョン、最古の魔物よ、この施設は一体なんなんだ?」
するとティアマトさんはジッと黙って、不意に横を向いて、『バフン!』って凄い音を立てて短いブレスを吐く、いやブレスじゃないな、多分あれ、くしゃみだな。