第112話【治癒の退行による奇跡】
めんどくさい言い方って思うけど、確かにこの聞き方、訪ね方なら齟齬は生まれそうもない。無駄なやり取りが無いって奴だ。
「更に尋ねるが、このまま交戦という形になるが、どうか?」
「いいですよ、僕に気持ちを変えるつもりはないですから、力づくでどうぞ」
とまで言ってあげた。
だって、ほら、自衛隊でしょ? 衛ってるわけだから、こっちに交戦の意思をはっきり出さないと向こうも手が出せないじゃない。いわゆる交戦権って奴かな?
「ちょっと違いますけどね、ダンジョンないなら、その辺は大丈夫じゃないんですかね、自衛官と言ってもまだ学生ですし、その前にここにいる以上は彼らもまたダンジョンウォーカーですよ、秋さん」
と角田さんがとってもわかりやすい解釈で教えてくれた。
「包囲して殲滅、数の優位に驕るな、確実に仕留めろ」
と指揮官が言うと同時に、左右の隊列は僕に対して距離を詰めて取り囲む。
一斉に突きがが来た。剣の突きとは全く違う、速度ととてつもない重さを乗せて、心臓の辺りを狙って一気に攻めてくる。
早くはない、でも確実にそれは僕の生命を取りに来てる。
弾いたくらいじゃ方向も飛ばせない重い突きが迫る。
「ぐわ!」
と言って一人を剣と体で吹き飛ばして、そのまま包囲を突破する。まあ鉄壁かもだけど、その中の一人を選んで倒せば簡単に穴は開くわけで、そう考えさせないところにこの包囲があるわけなんだけど、結局は一人の人間だからね、こう言った対処になる。
で、わかったことが一つ。斬れるな小銃。ん、訳も無い。
再び隊列を組み治そうとする動きを見ていると、後ろから、
「セイ!!!」
ってかけ声と共に刀を振り下ろされる。いや刀って言うよりは軍刀かな? 厚みのあある直刃、僕がその包囲を突破していた頃からその様子を見ようとその指揮官を背後に回した時から狙っていたのは知ってる。だから、受けてみた。
ん、大丈夫、僕の剣ならこの軍刀も斬り裂ける。
それにしても凄い力だね、当たった時のインパクトもそうだけど、未だにグリグリと合わさる僕の剣との接点から下げ下ろす力が弱まってない。
迷いもなく、僕を斬り裂き死に至らしめる威力がある。
多分、この人を倒したら、指揮官不在になるからわかりやすく僕の勝ちになりそうな感じだけど、ここはもうちょっと時間が欲しいから、一回、軍刀ごと押し切って、刃を走らせつつ遠くに押し返す。
そうしたら指揮官の人、不思議そうな顔してるんだよ。そうだよね、体格的には多分、指揮官さんよりもだいぶ小さい僕になんか押し切られてるんだから、納得いかないよね。
でも、
「なるほど」
なにやら納得の表情だ。
それにしても、真希さん出てこないよなあ。出て来られたら困るけど、いつものなら、いの一番に出て来そうな物なんだけど、それに、この状況において、何か物足りない気もするんだよなあ、僕の方も何か足りないって言うか………
「ぐわああ!」
いつの間にか混戦状態になってて、みんな参加してる。
僕の方には葉山と春香さんが一緒になって戦ってる、と言うか防戦してくれてて、自衛隊の包囲もだんだんばらけてきてて、その中の何人かが角田さんと桃井くんに襲いかかろうと躊躇している時に、ボーッとしている桃井君が無意識に、例の『傷を広げる』攻撃をしていた見たい。物凄い辛そうにその自衛官は肩を抑えてのたうち回っている。
「あ、ごめんなさい」
って桃井君は言うんだけど、そのまま特になにも感じていないように再び心ここにあらずって顔をして、またボーッとしてる。