第104話【対母さん用必殺剣?!】
ひとまず、どこに行けとか言われてないから、ここで時間を潰そうかと思う。
一応の覚悟というか開き直りを僕から感じ取ったのか、薫子さんは、
「やはり、ここは譲らないようだな」
と言った。勿論だよ。このティアマトばあちゃんを外に出して飛ばさせてもらうよ。
「薫子さんも、行かせる気ないでしょ?」
「無論だ、その為のギルドだからな」
「じゃあ、今回は敵って事で」
「うむ、仕方ない」
って、薫子さんは、ギルドの先遣隊から一歩前に出た。
しかしそれに対して文句を言う人がいた。
「ちょっと姫様、待って、待って、私が行く」
と口を挟むのは相馬さんだった。
スラリと伸びた長身に、それに良く似合った長剣『ハースニール』雪華さん曰く、この剣って、相馬さん専用剣で唯一無二なんだって、勿論雪華さんのお父さんのオリジナルなんだそうだ。
「秋先輩、最初は私で良いでしょ?」
と言って薫子さんの前に出る。
これから刃物を持ってこれからだ斬り合うのに、まるでカラオケとかの順番を決めてるくらいの軽いノリがある。まあ、良いけどね。
「どけ、相馬奏、ここは私が、同じ兄弟弟子としてだな」
とか薫子さんが言ってる。
いいよ、いいよ、揉めて良いよ、時間を無駄に使ってくれるのはありがたい。
「私もたまには今日花様に習ってるから、姫様ほどじゃ無いけど、ちゃんと鍛錬してるから」
と相馬さんはなかなかの譲らない。僕の前で、女の子二人がぐいぐい押し合ってる。
「お前に、真壁秋に勝てる訳ないだろ? 一体、なんの根拠があって私の前に立ちはだかると言うのだ」
といい加減、キレ始める薫子さんに、相馬さんは言った。物凄いドヤ顔で言った。
「実は私、札雷館で、『明日葉』様に稽古をつけていただいているんです、だから今日花様の剣を打ち破る必殺の剣技があるんです」
ほう。
それは僕の知らない情報だ。初めて聞いた。で、いつもどんな時も不動な春夏さんがピクってする。ちょっと反応する。
だから相馬さんが何をするのかちょっと見てようかな? ってなる。
そして、薫子さんは、その『明日葉』が誰かわからないでいる。
「ちょ、ちょっと待ってろ真壁秋………、誰なんだ? その明日葉というのは?」
ボソボソと薫子さんと奏さんは言い合いを初めてしまう。
「えー、知らなんですか? 姫様?」
相手をイラッとさせる言い方だね、完全に情報において自分の優位性を保ってるって感じ。
「知らん、誰だ」
「今日花様のお姉さんですよ」
「!!!!! 本当か?! 今日花様に姉がいるのか?」
「間違い無いです、なんなら春夏さんに聞いて見ますか?」
「なぜそこで東雲春夏が関わって来るのだ?」
「春夏先輩のお母さんですもの」
「なんと、ではつまり、東雲春夏と真壁秋は姉弟ということになるのか?!」
すると、今度は僕の後ろにいた葉山が反応する、
「あ!、やったー、じゃあ結婚できない」
「違う違う、うーんと、お互いの親が姉妹で甥、姪の関係だから本人同士は従兄弟同士になるのかな?」
相馬さんが言うと、
「従兄弟同士って結婚できないんじゃなかったっけ?」
それでも葉山は食い下がる。随分と拘るよね。この辺の事情について。
「従兄弟同士は四親等ですから婚姻は可能ですよ」
と角田さんが余すことない広くて取り分けどうでもいい感じの知識をひけらかしてくれる。ああ、そうなんだね。
言われた葉山はなんか悔しそうだった。「ぐぬぬ」とか言ってる。
まあ、そんな事はいいや、それより今はその『必殺剣』の方が気になる。
うん、対母さん用の技なら僕も知りたいから。
「じゃあ、行きますよ、秋先輩!」
相馬さんは言って、僕の正面に立つ。立つんだけど、何? この中途半端な距離?
いきなり身を屈めると、その場で「えい!」って言って、コロンと前転してスクッと起き上がって、一応、間合いを詰めた事になるんだろうか? 僕の目の前に立って、恋人距離で、「えい!」って普通に攻撃してきたから、その剣を普通に弾いた。