第99話【ギルドは静かに動き出す】
「良く考えて、今、真壁は、このドラゴンおばあちゃんを彼女の言葉だけを信じて、外に出そうとしてるの、ギルドは全力で来るわよ、あの真希さんだって確実に敵に回る、雪華さんだって、一緒に暮らしてるウザい薫子もよ」
いや、薫子さんがウザいのは葉山に対してだけだと思うけど、それはともかく、わざわざと言うか、勢いだけで決めてそうな僕に葉山は的確にこれからやって来る僕の危機と言うか現実問題を提示して来てくれる。
改めて聞くと、散々な内容だよね、正気の沙汰じゃ無いよね。
うーん。
色々ある。
多分、僕の知らない僕の記憶には、きっと沢山思うところはある。
だから、安全だってわかる。
きっとこのティアマトさんは安全な人、いや竜だけど、それは分かる。多分、ダンジョンウォーカーや人に害を為すモンスターでは無いってのはわかるんだ。髭くれたし。
姿は巨竜で、漆黒で、ひたすらに怖そうな感じでも、きっと害は無い。
ヤバイのはこの大きさくらいの物で、まさにこの巨体で札幌の市街地を闊歩された日には普通に怪獣出現、街が蹂躙になってしまうけど、空を飛ぶ分には害は無いと思うんだよ、ほら、札幌の大通り周辺も最近、電線地中化も進んで来てるし、路面電車や地下鉄、地下街辺りを避ければ多分、その辺も大丈夫だと思う。
それに時間を考えればそこに住まう人、仕事してる人、観光客の皆さんに迷惑をかけることも無いし、いけそうじゃん。
それに第一、春夏さんのお願いだよ、僕がそれを叶えない訳無いじゃん。
「誰にも迷惑かけないなら、僕、彼女が空を飛ぶのはアリだと思う」
と言うと。
「はあああ」
ってとてつもなく深いため息を吐いて、葉山が、
「わかった、協力する」
と言う。
いや、無理しないくていいのに、特に今回は方法にもよるし、概ねギルドの人間を敵に回すような真似だし、葉山来なくていいのに、
「行くから、絶対に行くから、ギルドが敵でも、誰が敵でも私はいつでもどこでも真壁の味方だから」
って言った。
本当にいい奴だよなあ、葉山って、仲間思いで絶対に見捨てたりはしないんだ。
大体、ギルドを敵に回すなんて、大げさだよ。
誰にもバレない様に、そーっと外に出て出して、ちょっと札幌上空を満喫したら、また、そーっと帰ってもらうからさ、その辺はティアマトさんもわかってくれると思うんだ。ちょっと時間は短くなるかもだけど、それは仕方ない。
「本気でバレないと思ってます?」
角田さんが言う。
「え? だって、大丈夫でしょ? リリスさんも街にいたけど何の問題も、何も言われて無いし」
「ここに固定されてるティアマトがいなくなるって事だけで大事件ですよ、それにリリスはモンスターではありますが、運営側の存在です、ギルドも多少の融通を効かせますよ」
何だよ、リリスさんは良くて、ティアマトさんはダメなのかよ、それに運営側って何だよ?
そんな疑問を抱く僕に対して角田さんはちょっと、しまった! って顔をするんだけど、いいよいいよ、ゼクト様だから、僕が知らない事とか知ってるし、知られて不味い事とかもあるよね、いいよ突っ込まないから、つまり、ティアマトさんはダメって事なんだねギルド的には。
でも引き受けた以上は絶対にやるから。だから真希さん来ないうちに、ちゃっちゃと行動だよ。




