第63話【至宝なる銀鱗の鮭は、妖刀で捌いて魔剣で炙る?】
そして顔を上げて彼女は自信を紹介してくれる。
「はじめまして、私は『一心 浅葱』です、『D &D』に所属しております、以後お見知り置きを」
と言ってまた頭を下げる。
うわ、うそ、超有名人じゃん。
D &Dって言えば、深階層でもトップクラスの団体だよ。深階層でのギルドみたいな組織だよ。
知らない人はいないでしょ、たまにテレビとかでも特集組まれてるし、ギルドほどの露出は少ないものの、これら深階層の組織って、野球で例えるとメジャーリーグみたいな物だからさ。
そのD &Dってギルドと並ぶくらいの古い団体でもあってさ、ダンジョンの深層階のさらにその奥に置かれるダンジョンギフトって呼ばれる、伝説級の装備をいくつも所持していることでも有名なんだ。
でもって、一心浅葱さんって言えば、このダンジョンにおいて、数名しかいないって言われてる戦闘特化、特に斬撃系でのトップクラスであるサムライとしてクラスがギルドに認定されてる人だよ。
通り名が『一刀の淑女』なんて言われる。
確かに、本当に、まさにそんなイメージだ。言葉に偽り無しだよ。
じゃあ、今、手にしてるのは『妖刀 村正』って事かな?
この辺も有名でさ、D &Dのツートップって、この一心さんと、リーダーである『炎の魔剣 グラム』を操る、深階層を治める『君主』って言われる辰野って人。
僕が知ってるくらい有名は人達で、組織だよ。ギルドと同じくらい有名人なんだ。
なんで、そんな人が浅階層のこんな浅いところに……?
すると、浅葱さんは、ちょっと恥ずかしそうに、
「私も辰野さんも、トキシラズが、特に塩焼きが大好きでして、たまにこうしてやって来るのです、浅階層の皆様にはご迷惑かもしれませんが、卑しくて申し訳ありません」
って言ってた。
なるほどね。
トキシラズの美味しさに関しては、階層とか関係ないもんね。いや、国とか? まさにワールとワイドな、本当に美味しいもんね。
そんな一心さんは、半身を渡しした春夏さんを見て微笑んで、でも、ちょっと寂しそう? そんな顔をしてた。
二人が知り合いだったって事にも驚きだよ。
そっか。
トキシラズを求めてワザワザ浅階層まで来るなんて、よっぽど好きなんだな。
今気がついたけど、このダンジョンでも最強剣の一つって言われる妖刀村正で魚を捌いてるって事?
村正の別名が、これだと『鮮魚スレイヤー』になりそうな予感もするけど、武器って言うより、調理器具扱いになりそうな、でも、日本刀とか人斬り包丁とか言う人もいるから、それは広義で捉えてもいいのかな?
そんな疑問が思い浮かんだら、なんか、この一心さん、ちょっと恥ずかしそうにしてた。
あ、しまった、真希さんの言ってたことを思い出してしまう。
深階層も一流なダンジョンウォーカーともなると、簡単に人の心を読むって。
ここにいる一心さんの場合は一流どころじゃ無いかね、超一級だからね。
ヤバイヤバイ、何も考えようにしよう。
って思いつつ、僕らとしても、半身をいただいてしまって恐縮してしまうんだけど、家に帰ったら、七輪出さないとな、って思いつつ、ふと考えてしまうんだ。再び要らぬ疑問が浮かんでしまう。
å(?)
遠赤外線で焼いたトキシラズの味にさ、この一心さん達はどうやって、深階層で魚を焼くんだろうか? って。
で、一瞬、僕としてもばかな事を考えてしまう。
いや、まさか、『炎の魔剣 グラム』で魚は焼かないよなあ。
絶えず燃え上がってる剣だけど、その熱は竜鱗さえ切り裂くけど、別名『炎の舌』だけど。
なんて思って、僕は一心さんを見ると、春夏さんと向き合う穏やかな表情が、僕を見て、一回、微笑だんだよ。まるで、僕が思った疑問に答えてくれたみたいなタイミングだった。気のせいかもしれないけど。
遠赤外線とか出てそうだけど……。
いや、まさかなあ……。