第93話【ご老公と呼ばれるドラゴン】
どうも鮫島さん、断られたらしい。
じゃあ、僕らもダメだなあ、って思って、
「どうしよう、角田さん、やっぱりさっきの場所に戻る?」
って尋ねると、
「いや、どうも、向こうさんは、来るの待ってるみたいですね」
って角田さんが言うんだよ。
「誰をさ?」
「そりゃあ、決まってるでしょう」
って角田さん、そして一息ついて、
「どうする、嬢ちゃん」
ってどうしてか、春夏さんに話を振った。
もちろん、春夏さんは、いつもの笑顔で、こう言うんだ。
「秋くんやりたいようにすればいいんだよ、私は止めないし、応援する」
だって。
じゃあ、決まってるよね。ここまで来て会わないわけないじゃん。
そう心が決まった時、その巨大な扉は僕の意思に答えるように内側に開いて行く。
僕は、開かれた扉からの声を聞いた。
「さあ、入っておいで、全てを合わせて混ぜ二つに分けたお前は、この部屋に入る資格があるんだ」
とても優しい声。
おばあさんの声。
優しく誘う、不安など微塵も感じない、そんな声。
子供か孫でも呼んでるみたいな声。
まるで遠い遠い底の無い奈落の底から聞こえてくるその声を、僕は確かに懐かしいと感じていた。
扉から入ってその室内の広さと暗さに驚く。
そんな闇がさ、ちょっと優しい光が浮かんで、僕はようやくその声の主を確認できた。
まるで、この世の全ての光を吸い取って体内に捉えて二度と出さないような、黒く鈍い色の巨体な竜は、大きな翼をまるで自分の体を覆う毛布みたいに羽織って、広い室内に体を緩やかに寝かせていた。
すごい大きさだよ。まさに巨竜。
ここ、暗いからよくわからにけど、この大きさの竜を地上に下ろすなら、学校の校庭くらいはいるかなあ、その体高だって、小さなビルくらいは軽くある。
首が起きて、大きな竜の顔が宙に浮いた。
その部屋に入る僕をジッと見つめて、
「やあ、秋、久しぶりじゃないか」
大きな目でジッと見つめて、嬉しそうに呟いた。
僕は、ただただ、その大きさに圧倒されていて、そのドラゴンの言葉なんて全く聞いてなかったんだ、でも頭に残ってる、「久しぶり」って言ったんだ。僕はそのことを知らないから、どう答えようかって、そんな思いをしてるんだけどさ、その大きな、ここから見える、その瞳がさ、人って訳でも無いのに、どうしてか優しい感情が伝わってくるんだ。
ほんと、何年かぶりに田舎のおばあちゃんにあってるみたいな感覚だよ。例えて言うなら、僕は生後数ヶ月で、その時の記憶なんてありはしないけど、なんか懐かしい。みたいな感じかな。
もっとも大きさの対比で言うなら、このドラゴンの大きさって、普通にうちの学校の校舎くらいはあるから、普通に窓とかついててもいいかもって思っちゃうから、懐かしいって思う前に圧倒されてしまってるけどね。
ともかく、今まで僕が出会ったどんなモンスターよりも大きかかった。
そんなティアマトさん、大きくて怖い竜の顔して優しく言うんだ。
「では、尋常に勝負といこうかね」
特に身構える事も無く、僕は、
いや、ご老公、それはなりませんぞ、って思わず言いかける僕だったよ。