第80話【春夏さんと札幌デート】
母さんが起こしに来て発見されるけど、その度に、「もうちょっと大きいベッドの方が良かったかしらね」ってため息をつかれる。それもまた違うくない? ベッドの大きさの前にもっと違ったことに指摘があってもいいと思うのだけれとも。そんな狭い僕の最近のベッドに何故か妹と茉薙までやってくるようになった。
お陰で最近、寝不足なんだよなあ。
ダンジョンにも行けないしさ。
ああ、ちょっとフラストレーションが溜まり気味だね僕。
何度か、そーっとダンジョンに入ろうと思うだけど、すぐに秋の木葉の人が来るんだよね。
するとギルドの仕事が手薄くなって、みんなに迷惑かかってしまうから、仕方なく遠慮してる。
ちなみに、茉薙と葉山も一緒になってギルドに行ってる。だからかな、妹も。
僕一人がダンジョンには入れないんだよね。
じゃあ、僕も手伝おうか? って言うんだけど、『騒ぎが大きくなっちゃうからね』ってのが僕以外の人間の共有な意見なわけで、来ないでいた方が助かります、って言われてる。遠回しに迷惑だって、そんな感じ。
酷くない?
お陰で、おやすみな今日もみんないなくて僕だけやる事がない。
しがなく一日誰もいない家でゴロゴロしてるかあなあ、とか、定山渓の方まで行って、久しぶりにヒグマと遊んでくるかなあ、なんて非建設的なことを考えてると、そこに春夏さんが来た。
「ごめんください」
って誰もいない玄関で上品に声を掛けてた。
二階から降りて来る僕を見つけて、
「あ、秋くん」
って嬉しそうに言うから、僕も嬉しくなってしまって、
「春夏さん」
って声をかけるけど、それから、
「今、家に誰もいないんだ、かあさんもいない」
って言ったら、
「うん、だから遊びに行こうと思って」
ああ、そうかダンジョン以外にも遊ぶ所ってここ札幌にはたくさんあるもんね、って事を今更思い出した僕だった。
んー、でもどうしてだろう? ダンジョン以外で、パッと思いつかない僕がいる。なんかあったかな?
それだけ、今の僕の生活はダンジョン中心で回っているって事なのだろういって思う。依存症じゃなきゃ良いけど、一応、今度ギルドが主催するダンジョン依存度指標でも受けてみようと思う。もちろん重篤って結果が出ても通うよダンジョン。今日は入れないけど。
いやいや、札幌にはさ遊ぶところは沢山あるよ、でもなんだろう僕には思いつかないんだよね、多分ダンジョン中心に色んな事を組み立ててるから、その主観が抜けてしまうと、どうもなあ、って感じなんだ。
って思って、今更だけど、ここで初めて春夏さんの服装に気がついたんだよ。
ワンピース、って奴かな? 白系統のとてもお上品な服装で、それで無くとも上品な春夏さんにはしっくりと来るなあと、ここで気がついたんだけど、僕、そういえば春夏さんの私服ってかダンジョンモードと学校の制服以外って、久しぶりに見た気がするんだ。
えーっと、最後に見たのっていつだったっけ? ダメだあまりにも昔すぎてピンと来ない。
こうして見ると、春夏さんもお嬢様なんだよなあ、東雲家だもんな。
ってここで、なんか春夏さんモジモジしてうるなあ、って、あ、僕、春夏さんをガン見してた。今更気がついて、
「ごめん」
ってつい謝ってしまったら、
「ううん」
って春夏さんが言った、何やら否定してくれるんだけど、ちょっと恥ずかしそうに体の向きとか調整して僕の視線から脱しようとしてた。
おもわず顔をそらす僕なんだけど、
「こんな格好、あんまりしないから恥ずかしいよ」
って春夏さんが言うから、改めて僕のしていた春夏さんガン見がちょっと申し訳なく思って、
「ごめん」
ってもう一回謝ったら、
「ううん、私もこんな格好しててごめんなさい、似合わないのわかってるけど偶には………」
って言い掛ける、言い切る前に、
「何を言ってるのさ、春夏さんに似合わない服なんてあるわけないよ、すごくいいよ、何着たって似合うに決まってるじゃん」
って、当たり前の様に思ってた事を口に出してしまって、次の瞬間、自分がとっても恥ずかしい事言っているのに気がついて、頭からも湯気出そうになる。
「あ、ありがと、嬉しい」
春夏さんが答えてくれるから、その話はそこで終わった。あ、当たり前じゃん、って思うけど、もう口からは出なかった。
だって、春夏さんとお出かけだよ、本当に何年振りだろう。あの頃は僕も小さかったから、でも、女子高生の春夏姉さんとのデートは割と頻繁に行ってたよなあ。
って思いだして、ちょっと照れる僕だったよ。