第76話【ダンジョン・オブ・リビングデッド 解決編⑥】
ああ、そうか、ここにいるみんな朴念仁認定されてる人だった。
「なんだ、マー坊もかよ」
ってクソ野郎さんが言うと、
「まったく、おかしな噂が立つものだよ」
と、辰野さん。
「ほんとですよね」
って僕も言った。
で、何となく、朴念仁認定されてる僕らはみんなで笑ってた。
そんな僕に、キリカさんが近づいて来て、
「殿下、一度、お顔を………」
と、蒸しタオルを差し出して来たから、ありがたく受け取って、
「ありがとう、顔が突っ張ってたから、助かるよ、蒼さんの唾液、かなり頑固に突っ張るから、ちょっと大変だった」
って言うと、蒼さんが、土下座せんばかりにひれ伏して、
「お館様の顔を舐め回すなど、大変誠に申し訳なく、遺憾に思います、この責は、この腹かっさばいて…」
って蒼さん自分のお腹に剣を突き立てようとするので、みんなで止めた。
忘れてた、この人達、ガチだった。命を賭して僕を全力で守ってる人達だった。ヤバイヤバイ、すっかり忘れて発言してしまった。
「いや、大丈夫、平気だから」
って言うけど、五頭さんに小脇に抱えられている猫みたいなカッコになっってる蒼さんは、僕の方を、申し訳なさそうに見てるけど、ほんとに大丈夫だから。
でも、一回言ってしまった言葉が残ってしまうから、ここは上書きの為に、
「ほ、ほら、蒼さんくらいの美少女に顔とか舐められるのってもうご褒美じゃん」
早急に自体を収める為に出た言葉は、なんか変態さんみたいな言葉になってしまった。
「それに、唾液って殺菌作用とかあるしさ、まあ、よかったよ、それより、蒼さんの方が、僕の顔なんか舐めて、大丈夫かなって心配だよ」
適当に貼り付けた感が半端ないけど、そこに、
「ほら、蒼様、主人様もそう言っておいでです、この程度の事で死を賭しての詫びなど望んでおられませんよ」
と椎名さんが助け舟を出してくれた。
「そ、そうだよ、ちゃんと側で守ってもらわないと、だよ」
僕、この言葉を後悔することになる。この発言のおかげで、僕と蒼さんの距離は、近くではなく、無くなったんだ。その説得にさらに時間がかかるなんて思いもしなかった。
僕じゃなくて、五頭さんに向かって、「ホントに?」って、蚊の鳴き声みたいな声で聞いって、「ええ、間違いございません」「そうかな………」「そうですとも」「………わかった」と得心言ったみたいな顔の蒼さんは、僕の方を見て、
「わかりました、お館様の意に添える様に頑張ります」
って蒼さんの笑顔に、その時は全く深くは考えなかったんだ。
それは別の話として、僕はせっかく作ってくれた蒸しタオルで顔をゴシゴシする。サッパリとした所で、タオルを返そうとすると、今度は椎名さんが、
「主人様、まだ、首のところが」
と蒸しタオルを僕の手からそっと取って、僕の首回りを拭いてくれる。とても丁寧に、丹念で優しく、蒸しタオルの裏表を使って拭き取ってくれる。
「ありがとう」
椎名さんに隅々まで拭いてもらって、正真正銘にスッキリする僕だよ。
「いえ、お手間を取らせて申し訳ありません」
と椎名さんは言った。
普通に、本当に当たり前に言った。
前に前にくる他の人たちと違って、椎名さんって適切な距離を知ってるなあ、って、この人、僕が絶対に嫌がることをしないからさ。
本当に安心するよね。




