第70話【ダンジョン・オブ・リビングデッド 理容編③】
って言ってる側から、蒼さんのほっぺにキリカさんチューしてた「ひぁぁぁぁ!!!」
って声を出して驚いてた。その声に僕も驚いてた。
ちょっと気がついたんだけど、さっきも鮫島さんの時も感じたんだけど、このキリカさん、どうもチューする時の顔が嬉しそうなんだよなあ。最初は恥ずかしがっているのかと持ったけど、なんか笑顔だ。
自分の事、人間とかじゃないって言ったし、それって比喩でなくて、もしかしたら『キス魔』とか? いるかなあ、このダンジョンにそんな悪魔?
そして、蒼さんのほっぺに綺麗な青色のキスマークがついたら所で、
「ゾンビ避けです」
ってキリカさんが言って、蒼さんが礼を言ってた。僕も同じところにあるからってことに気がついて納得の蒼さんだよ。
そんな僕が注視しているのに気がついたキリカさん、
「ごめんなさい、私、今、笑顔でしたね」
っていうから、きっとチューが好きなのかな? って言葉にしにくくて、返答に困って微笑んでいると、
「こんな形で、影響を及ぼさぬように、軽減した状態でも『血の契約』によって、自分の眷属を増やしているというのは、それでも私の本能に湧き上がる喜びがあるので、隠そうとは思っているのですか、不愉快だったかもしれません」
と言って僕と蒼さんに向かって頭を下げてた。
なんの事を言っていうのか僕には全くわからないけど、それが僕らにとって有効であるなら気にしないよ。って思って、「大丈夫です」って言っておいた、そして、
「これって、有効期限とかあるの?」
キリカさんに尋ねると、
「はい、一日程度です、とても軽いものですから」
とキリカさんは言った。
そうか、予防接種みたいにある程度の長い期間有効ではないらしい。
でも、今後、こんなゾンビ化現象がこのダンジョンに一般的になってきた時の対応法のとかあったほうがいいのかもしれない。
「じゃあ、きっと、髪の毛剃っちゃうのが確実なのかなあ、いっそ僕も五頭さんみたいに………」
って言い掛けるも、
「ダメー!、絶対に嫌です!、ダメ!」
珍しく蒼さんが声を荒げて言った。真摯に僕の顔を見つめて、その勢いにびっくりする僕だよ。
「うん、わかった、大丈夫、平気、問題ない、OK、 剃らないから」
って思わず言ってしまうくらい、そこそこ迫力があった。
固まってしまう僕に、
「では、急ぎましょう、秋王殿下」
とキリカさんが言う。
うん、急ごう、って思った瞬間に僕ら3人フアナさんに抱きかかえられる。
「ありがとう、フアナ、教会に急いで」
僕のすぐ上の顔が頷いた。
そして、物凄い速度で、フアナさんが走り始める。下半身の蛇の疾走、音もなく、振動も無く、ただ前に進む、多分、一般道を走る自動車よりも早い。ダンジョンだから余計そう感じるのかもしれないけど。でもこの入り組んだダンジョンを車ではこの速度では進めないと思う。時に壁を伝って僕らになんの負荷も無く直角にまがるんだ。ビュンビュンと周りの景色だけが飛んで行く。なんか、もう叫び出しそうにテンションが上がってくる。
この移動の仕方、フアナさんの乗りごごち、癖になりそう。
滑る様に移動するって感じかな。
階段すらもその高低差によるギャップを感じないもの。
気がつけばもう3フロアも降りてる。
とりあえず、こっちの用は、蒼さんって言うオマケもついて全部完了した。
今度は桃井くんだ。
頬に当たるダンジョンの風が気持ちいいなあ。
でも、感じるんだ。
フアナさん、ちょっと焦ってる。
きっと桃井くんの事を心配してるんだな。
大丈夫、任せて、サクッと終わらせるからね。
「もうすぐ終点です」
ってキリカさんが言った。
ひとまず、身を引き締めてだ、気持ちを入れ始める僕だった。
でも、この速度の前に『ヒャッハー!』って叫びそうになってしまう僕だったよ。




