第61話【ダンジョン・オブ・リビングデッド 邂逅編②】
「いいよ、ごめんね、仲間倒しちゃって」
と一応謝る。
「何を仰せでしょう? 偉大なる王に刃を向けるなど、あってはならない事です、寧ろ。我が身にも罰をお与えください」
いや、与えないし、偉大じゃないし、王とか言われてもただのスキルの話だし、敬われる筋合いも無いし、ほら、立って、立って。と手で起立を促す僕だよ。
「ご容赦ありがとうございます」
と立ち上がった後に満面の笑みを僕に向けて、また深くお辞儀するキリカさんだった。
そして、今度は、
「助かった、じゃあ、俺は仲間を助けに行く、でかい借りを作っちまった、すまねえ」
と鮫島さん、僕に深々と頭を下げる。
いや、いいし、ちゃんと道案内してくれてるし、フアナさんも救えたし、キリカさんとも合流できたのも結果オーライだし、って言おうとすると、
「俺は、仲間を助けに行って来る」
って言うから、
「何言ってるの? ダメだよ」
って僕は言う。
だってそうだよね。
「お前、先を急ぐんだろ? ここは良い、もうこれ以上、お前の足をひっぱりたく無いんだ、それにもう敵もいねえ」
って言うんだけど、
「いや、もう目と鼻の先でしょ? 良いよ、一緒に行く、こんな様子なら何があるかわからないからね」
と言うと、なんだろう、鮫島さんその大きくも無い目に涙が溢れているのがわかるくらいの表情になってて、
「いや、だって、俺は、仲間を盾にされてたとは言え、汚ねえ罠にお前を巻き込んじまった男だぞ、もう、これ以上は迷惑かけられねえ」
言っている意味がわからない。
ちゃんと案内してもらって、僕はフアナさんを助けることができたんだよ、じゃあ、助かってるじゃん。
どこにも罠らしきものはなかったしさ、素振りに毛の生えた程度の敵の抵抗なんて、これが罠って言うなら、毎晩、布団の中に強襲して来る薄着以下の葉山や、お風呂に突撃して来るバスタオルじゃ無い普通のタオル装備の葉山の方が余程たちが悪いよ、あの心臓にキュッと来る物が無い分、精神衛生上なんの問題も無いよ。
少なくとも、その後に何故か一緒に薫子さんに怒られる理不尽さも無いもの。どう言う訳か、母さんも「怒られなさい」とか、言われないしさ。
もうあの家には僕の味方は誰もいないんだよ、力づくでどうにかできるなんて罠なんて言わないよ。
あれが罠って言うなら家にいるよりよっぽと安全だね、マシだね。割と楽しかったし。
だから、
「ここまで来たんだし、目的は果たしている訳だし、良いよ、付き合うよ、なんかでっかい敵もいるみたいだし、行った方が早く終わるから」
って行ったら、鮫島さん、目をウルウルさせて、
「すまねえ、お前、いい奴だな、俺、誤解してた」
とか行って土下座、まで行かないけどそれに準じたお辞儀以上をしている。
いいから、もう、立って立って。
なんか僕の方もさ、手加減し続けてたから、楽しかったけど若干のフラストレーションとかも溜まってるしさ、このへんで思いっきりやりたいなあって思ってただけだから。
でも、あっちの、さっき言った部屋って何もなかったけどなあ、隠し扉でもあるんだろうか?
って思ってたら、
「失礼します」
ってキリカさん、僕の横につつと最接近して来て、頬に口付けた。
あまりにも自然の流れで来たから、された事を自覚すると、
「うわ!」
って驚く僕に、
「ゾンビ避けです」
と言った。
そして、
「従者の方にも」
と鮫島さんの頬にも口づけ。
鮫島さんの頬に、深い藍色のキスマークが出来ていた。だから僕の頬にもあるんだろうな。
「これで、もうゾンビ化はしません、アンデットを束ねる者として私も、この程度のことはできます」
ん? てことは、今行こうとしている場所はゾンビがいるって事?
一瞬過ぎる不安なイメージ。
「もう、既に仲間はゾンビになってしまっているって事なのか?」
若干取り乱す鮫島さんの問いに、キリカさんは、
「いえ、大丈夫です、ですが、私達、世界蛇が作り上げた『アンデットモンスター』ですから、念の為にです」
と言って微笑んだ。
フアナさんも特に何も言ってないけど、不思議と同意って感じな顔してるし、いいのかな。
じゃあ、そのアンデットモンスターを倒しに行こうか。
こんな事を言うのもへんだけど、なんか充実してるな、今日のダンジョン。
やっぱりダンジョンは面白いよね
明らかに強敵がいるって思うと、見たこともないエイシェントモンスターがいるって聞くと、血湧き肉躍る僕だった。