第58話【ここ最近の浅階層の事情】
今朝、ギルドからの公式配信のメールで発表されたんだけど、正式に、エルダースライムである『銀色の貴腐人』が討伐された事、前回行われた、『狸小路現金掴み取り対戦』で、そこにはエルダー級はいないんだけどさ、相応の扱いのできる金額の『百万円越え』のエリアボスが倒された事、そしてきっとこれが一番大きいんだけど、正式の『四人目の王』の存在が確認されたことが発表されてた。
ギルドからなんらかの発表があるからって、そんな話が出てたから、この前の、札雷館と、あのクソ野郎さんとの一件で、僕も指名手配とかされたのかって、思って内心ヒヤヒヤしてたよ。
結構人通りの多いところでの事件だったからさ、目撃者も多かったみたいで、偶にダンジョンとかに向かるために、街の中を歩いてると、かなりの人数の人が僕に対して注目してるみたいな、決して気のせいではない視線を感じる事があるんだ。
特に危険とかは感じたりはしないんだけど、敵意ってのも無い感じなんだけど、確実に視線で追われてるなあ、ってことはわかるくらいに、これは決して勘違いじゃないんだ。
悪目立ちしてしまったからなあ……。
あの地下歩行空間の場所で、僕の顔を覚えてる人もいるのかもしれないな、って、そんな考えに至る。
普通にサラリーマンな人から、老若男女を問わず、かなり見られるからさ、でもこっちが視線を合わそうとすると、すぐに避けられるから、きっと、僕の顔の確認でもしているのかな? って思って、それでも安心はしているのは、僕と一緒に歩いている春夏さんが、特段、警戒することもなくて、ニコニコしてて、時折、
「秋くん、大人気」
とか変なことを言い出すくらいだから、実質、問題は無いだろうな、って考えてる。
あの時だけの、クソ野郎さんの話によると、僕にもスキルはあるみたいな事言ってたし、でも、厄介とも言ってたから、誰にも相談できないでいる僕だけど、それでもあの日の事は支笏湖(北海道にある日本2番目の深度を持つカルデラ湖)よりも深く反省していたりする。
だって、確かに僕はあの謎の雰囲気というか師範って言われる冴木さんすら正常を保てないくらいの、精神的な攻撃の原点は、僕の意識にあったからさ、本当に軽い気持ちで、「よーし、やっちゃえ!」なんて流されてしまったからさ、怖いけどきちんとその正体については見極めなきゃ、って覚悟はしている。
というか期待もしてる。だって、これって、あのクソ野郎さん達も言ってたけど、『スキル』の一種である事は間違いないし、だから総じて僕もスキル持ちってなるからさ。
春夏さん達みたいな『クラス』を持ってる可能性すらあるんだ。
ちょっとこの辺についても、期待半分、怖さ半分で複雑な心境として複雑なんだ。
だから、今は自分の事を考えるだけで精一杯の僕は、この公式発表を今日も改めてダンジョン入り口の掲示板で見てへーっ、ふーん。て感じになる。
だって、まあ、僕には関係ない話だろうし。
安心と言えば、例の札雷館の僕への嫌がらせというか、攻勢って言うか、接触みたいなものは無くなって安心はしてる。
多分だけど、冴木さんが抑えてくれてるんだろうって、考えると何か、敵の中に味方ができたみたいで、安心する。
常識が通用する側の人間が、札雷館にいるって事ではちょっと見直すし、君島くんさんみたいな人ばかり出ないことも、安心できる材料になってる。
ダンジョンばかりではなく、僕の周りも何やら騒がしい雰囲気なんだけど、今回のギルドの発表を見て、一抹の不安を覚える僕だったりするよ。
最近、ダンジョンって安定してたって聞いてたからさ、何やらにわかに泡立って来たって言うか暗雲の立ち込める様子に、浅階層くらいは平和であって欲しいよって、そして、対応して行くギルドは大変だなあ、って同情に近いものはある。
まあ、僕みたいな一般で新人で、ただのダンジョンウォーカーには関係ない話かもしれないけど、だからこそ、ってわけでもないけど、ともかく、僕ら一生懸命に、そして堅実にダンジョンを楽しむことにするよ。
そんな僕らは今日はダンジョン浅階層、地下4階に来てる。
今日もいつものメンバーね。だから一緒にいるのは春夏さんと角田さん。
今いる場所は、浅階層でも割と有名な、好きな人は好きだけど苦手な人は苦手っている、割と人を選ぶ、そんな一室に来てるんだ。