第52話【ダンジョン・オブ・リビングデッド 突撃編①】
葉山とか角田さんとか雪華さんを中心とする、今後の対策を練ってる人の輪から離れて、ふと気が付く。
あれ? 五頭さんがいないなあ、って周りを見渡して見ると、いたよ。
五頭さん、倒して気を失ってる世界蛇の人達を通路の端に並べてるなあ、偉いなあ、ちゃんと後片付けしてるよ。
そんなみんなの行動や姿を見ながら、ちょっと冷静に考えてみると、凄い光景だね。僕らに倒された他の戦闘員は今だに床に転がって通路の端に寄せられて指先一つ動かせないいみたいに、痙攣して変な声をあげてるし。なかなか静かに打ちあわせるってもいけない雰囲気だけど、ここにいる人達みんな、戦闘継続できない敵と言う人間っていないのと同じくらいで、全く気にすることもなく淡々と話し合ってる。
そして、角田さんをはじめとして、薫子さんや葉山、辰野さんとか今回の事件をいろんな角度から検討してるんだけど、正直、言っている事が高度すぎて、すでに僕の耳はその言葉や会話を静かな騒音の類と認識して、単なる音として処理し始めてる。
まあ、良いや。結果出たら聞こう。
それまでは、良いさ、僕を仲間外れにすれば良いさ。頭のいい人達だけで考えればいいんだ。本当にこう言う時って、ネギ食ってもっと賢くなってしまえって思うよね。青魚食ってどんどん賢くなればいいのさ。
「つまり、このゾンビ騒ぎの正体は、桃井茜に対する見せしめと行動を封じるための手段で、桃井君が捕まっている以上、フアナさんの方も手出しできなくて、恐らくは言われるがままに捕まって、同時に桃井君にとってもそれは一枚の切り札になってしまうと言う形が出来上がってしまっているということで、あくまでも私たちの推測の域は出ることはありませんが、おそらく今の私達の推測であっていると思われます」
雪華さんがそんな風に説明してくれた。わかりやすいなあ。雪華さんの説明。
ほんと、頭をよく見せたい人って、どうして、こんなに自分たちだけできる会話とかして、お前にはわからないだろ? って空気をかもし出せるんだろ?
本当に雪華さんを見習って欲しいよ。
「雪華さんの話はわかりやすくて助かるよ」
って褒めると言うか感謝すると、
「いえ、私の場合は、真希さんが直ぐに曲解を始めるので、そこに話の腰を折る最低な変化や自分(真希さん)にとって都合の良い解釈が入る隙間の無いように苦労した結果なんですよ」
って言ってた。真希さんが掛けている必要の無い苦労が、僕にとってはありがたい結果になっていると言うのも複雑な気分だ。
「成る程、わかった、つまりどう言う事?」
僕の言葉にびっくりする見たいな雪華さんに、角田さんが、
「ああ、ダメだ、エクスマギナの嬢ちゃん、秋さんは、キャパ超えると、『難しい』ってホルダに情報を全部ぶち込んで終了だから、そのことについてはもう考えなくなる、だから、この後の事を提案しないと、そっから先に思考が行かないぞ」
と言った。
いやいや、ちょっと酷く無い? 当たってるけど、確かにそうだけど、酷く無い?
「みんなが甘やかすからこんなことになったんでしょ?」
と葉山が言って、続けて、
「本当に初めて真壁に同行したときは、一体周りはどんな教育しているのかと思ったけど、この凶悪な戦力に対してまさかの放任主義に正気を疑ったわよ」
「普通はどこかで壁に当たるものだが、こいつの場合、障害となるものは呑気で片手間に破壊してゆくからな、これも今日花様のご指導に寄るところなので、私には良否の判断しかねる」
と薫子さんが言った。続けて紺さんが、
「秋の木葉が自立行動している大きな要因の一つっすね」
その言葉にまるで感心するように辰野さんが、
「いや、組織を縛らない自由なリーダーというのも、確かに難しいな、私の器では不可能だろう、そもそも組織として成り立たない」
「魅力でしょうか? ブラックホール並みの求心力と言えばいいいのでしょうか?」
と一心さんの言葉に、
「そうだな」
と辰野さんが同意した。さらに追加する紺さんが、
「今、秋の木葉とファンクラブでは、お館様『魔王説』ってのが浮上してるっす、もちろん、毒抜きと爪と牙の手入れをされて、きちんと躾られているので安全な魔王ってのが主流になってます」
なんだろうなあ、概ね7割くらいは馬鹿にされている気がするのは決して気のせいでは無いよね。あ、雪華さんはなんか悲しみに満ちた目をしてくれてる。同情してくれてるのかな? やっぱり雪華さんは優しいよね。
「秋君はそれでいいんだよ、賢くなくても、たとえおバカさんでも秋君は秋君なんだから」
って春夏さんが言ってくれる。まあ、春夏さんがそう思ってくれるなら、他はどうでもいいや、って思えるから不思議なんだよなあ。
ん?あれ? でも結局はバカって言ってないかな? 気のせいかな?