第51話【ダンジョン・オブ・リビングデッド 激闘編④】
ああ、なるほど、それで時間を稼いでって言ったんだね。
「助かります、こちらも情報が欲しいところでしたから」
と雪華さんが言うと、
その世界蛇の人、
「殺せ!」
とか、言ってる。
いや、殺さんないし。
ここ、札幌ダンジョンだから、そんな悲壮な結果は誰も求めてない。
すると、その世界蛇の人は、雪華さんをちらっと見て、ちょっと沈んだ顔して、いやショックを受けてるって感じかな?
「よりによって、ギルドの『拷問姫』に捕まるとはな」
って言ってる。
拷問姫って?
思わず雪華さんを見てしまうと、
「ち、違います、わ、私はいつも皆さんに協力して頂いて、口を割って…、じゃなくて最後はみなさん快く情報を提供して頂いています」
とか僕に向かって言うんだよね。
そうなの?
と、思わず、近くにいた薫子さんを見てしまうと、
「まあ、そうだな、最後はみんな喋ると言うよりは、聞いて欲しいになるな、そして、何もない、何も感じない普通の健康状態の有り難みに気がついて、人が変わった様に協力してくれているぞ」
と、どこか遠い目をして言う薫子さんだ。
そして、それを押す様に、
「さあ、好きにしろ! どんな苦痛にでも耐える、それが我ら世界蛇の教徒だ、お前の如きの力で与えられる苦痛など、蚊に刺される程の効果もないわ!」
って叫んだ、2分後、綺麗に喋ってた。
すごいなあ、雪華さん。
「苦痛なんて与えませんよ」
ってニッコリ笑ってから、その世界蛇の指揮官に与えたものは、強烈な『痒み』だった。
割と、裏の方で動く事を訓練されて、だいたいの拷問方法は知っているっている紺さんも、
「ひどす(酷すぎるの略)」
って言ってた。
人って痛みにはある程度の耐性を訓練で持つことはできてもこの痒みという感覚には耐えることはできないらしい。
しかも、全身に這い回って、麻痺しない様にその激しさは変化させてるんだって、時折、全く痒みの無い時間を作って、異常の無い状態を確認させて、また、強烈か痒み。
何より凄いなあ、って思ったのは、世界蛇のその幹部と言うか、この作戦の指揮官の人が、今までに体験した事のない激しい痒みにのたうち回っている時にに雪華さんがそれを見つめる目がね、もう、何とも言えないと言うか本当に、実験動物でも具に観察するかの様な、そんな表情がね、もう、絶対に雪華さんを敵に回したくないなって思えたんだ。
あ、これは僕の誤解ね。
後で聞いた話だと、あの状態の雪華さんて、その人が気絶や最悪命を落としかねない状態に陥らない様に、後遺症が残る様な精神疾患にならない様に、対象者を明確に観察しているんだって、つまりは上手に生かさず殺さず、ギリギリの底辺をはわせているかどうか確認しているって事だね、拷問している相手の健康状態を把握して一応は安全なラインを保っているって考えると、少なくとも命は保障しているって事で、これは良い拷問って事だね。
さすが、雪華さん。安全安心な拷問だ。
それと、茉薙から聞いた情報なんだけど、この応用で、どうしても苦手な物とかも克服させてくれるらしいんだ。
茉薙の場合は、ピーマンだったんだけど、あの臭いというか風味が苦手で、無理やり食べると吐いてしまうほど嫌いだったんだけど、どうしても克服できなくて、最終的に雪華さんに手伝ってもらって、口の中に常にピーマンを感じる様な仕様にしてもらったんだって、つまりは慣れろって事だね。
もちろんその時に感じる吐き気はそのままに、実際に起こる吐くと言う行為は起こらないように調整した状態で、常にピーマンの風味を口内に感じられる様にして、数日苦しんだ末に、ついには克服して、今ではピーマン無いと不満を言うくらいに好きになったらしい。
「お前も、好き嫌い多そうだから、頼むと良いよ」
って言ってくれたんだけど、それって、多分、雪華さんに対しての色々な経緯や同音異語になっちゃうけど、敬意のある茉薙だからって事で、普通にされたら「拷問ですね」って紺さんも言ってた。
「な、雪華すごいよな」
ってニコニコしている茉薙には、そんな事もちろん言える訳もなかった。
なんだろう、こう言うの見てると、本当にギルドって、味方にしておくと心強いし頼りになるけど、真希さんを筆頭に絶対に敵に回しちゃダメだよね。回す気ないけど、でも度々、こう言う事が起こると、良くギルドを相手に事を構える気になるなあ、と関心してしまう。
それに、ここ最近の雪華さんって、なんかもう、風格みたいな物とか醸し出してて、多分、真希さんに負けてないと思う。だから、もう、あの大柴マテリアルでさえも、一番偉い人、雪華さんでいいんじゃあないかな? 本当に年下って気がしないから。
「どうかしましたか?」
って笑顔で聞いてくるけど、何か言ったら心情を吐露しそうで、ここは笑顔で返しておくだけに止める僕だよ。