第48話【ダンジョン・オブ・リビングデッド 激闘編①】
漆黒の禍々しい鎧に、同じく黒い大剣。
顔も兜とセットの様な不気味な仮面に隠されて中の表情ところか顔すら見えない。
大剣を軽々と振りって、その切っ先を僕に向けた。
これもゾンビか?
それとも、偶々現れたモンスターか?
それとも、例の『世間蛇』の手先か?
「世界蛇です、秋さん」
知ってたよ、ワザとだよ。いちいちうるさいな角田さん。
「ほんと、ごめんなさい」
なんで葉山が謝ってるんだよ。
で、その世界蛇か?
まあ、戦えばわかるか、と思って前に出る。
ん?
今、こいつ、下がった?
ほんの一瞬で、ほんの僅かな移動で、でも確かに下がった。この全身黒の鎧の人。
もう一回。
あ、また下がってる。
なんだろう? この漆黒な鎧の人、僕らを待ち構えていた筈じゃ無いのかな? ここでの交戦って臨ところの筈なんだけど、なんか及び腰に見えるのは気のせいかな?
ちょと、これだけ開いた距離で、絶対に当たらないいし、なんの影響も及ぼさないけど、剣を振ってみる。
ああ、凄い下がった。
すると、後ろにいた辰野さんが前に出て来て、
「お前、鮫島だろ?」
と言った。
あ、黒い鎧の人、ビクってした。図星突かれたみたいになってる。
その辰野さんだけど、一心さんに何か耳うちされて、
「わかった」
と納得してから、
「鎧はともかく、その剣はお前のとっておきの『バルムンク』だろ? 体格も誤魔化されてないぞ」
と言って、再び一心さんに耳うちされて、
「確かにその鎧は硬ぞだが、おそらく、真壁くんが今、無造作に持つ…」
ちょっと考え込む辰野さんは再び一心さんに耳うちされて、
「真壁氏のマテリアルソードの前ではほぼやくにたたんぞ」
どうやら僕の持つ剣の名前がわからなかったらしい。そんな一心さんて、副官というよりはもう、辰野さんのお母さんみたいな感じだよ。世話焼かれっ放しだよ。
じっと、そんな辰野さんの言葉を聞いている鮫島さんとかいう人は、辰野さんから僕の方に顔を向けて、物言いたげにしている。
いや、そんな顔されても、ってか顔見えないけどそんな態度されても…。
「何をしたいのかは知らんが、この事件に対しては真壁氏の敵に回るってことでいいのかな?」
と辰野さん、一心さんに世話を焼かれているにもかかわらずしっかりと迫力を出してくるところなんて、流石、D&Dの代表な事だけはあるな、って思った。
まあ、僕としては一対一でやりあうのはやぶさかでも無いんだけど、なんかこの会話、というか、辰野さんが一方的に言っているだけの、そんな間の取り方がなんか不自然なんだ。
いや、辰野さんがいちいち一心さんに何かを助言されているからって言う所為ばかりでもなくて、そう言う一面も確か無いあるけど、他にも何かありそう。
気がつくと、紺さんもいなくなっているし。
そんな漆黒の鎧の鮫島さん、今度はなんか前に出てくる。覚悟を決めたみたいな、いややけくそになってるのかな?
そんな風に見ている僕に、
「秋くん、浅葱ちゃんから伝言、ちょっと時間を稼いでって」
と春夏さんがそう耳元で言ってくる。
ほとんど同時に、
「上の方は私に任せて」
と僕の逆の耳に葉山の声。
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よくわからないけど、わかった。
ひとまず、前に出る僕だ。
あ、また漆黒の鎧の鮫島さん後ろに下がる。いや、ここは下がってはダメでしょ、こっち向かって来てよ。なんだろろう、この人、やたらと後ろを気にするなあ、何かあるのかな?
まあ、いいや。
じゃ。
僕は前に出た。すると、一瞬、その鮫島さんであろう人は、大剣を持っていない、残った左手を前に突き出しての平を僕に向けた。まるでこっち来んな、みたいなジェスチャー。