第43話【ダンジョン・オブ・リビングデッド 接触編③】
さて、どうしようと考え込んでいる僕に、辰野さんは、
「ところで、桃井くんはいるかな?」
って聞いてくる。
やっぱり辰野さんもその辺に当たりつけてるんだなあ、
「いえ、いません」
と言うと、
「そうか」
と考え込んだ。
言われる前に言ってしまえと、
「やっぱり辰野さんは桃井くんを疑ってます?」
すると、意外な答えが出て来た。
「ああ、そうか、そうだね、彼ならこんな事もできるだろうね」
とまるで僕の心配を察するように、
「彼ならそんな事はしないよ、それは君だってわかってるだろ?」
隣にいる一心さんも頷いていて、ちょっと安心する僕だけど、辰野さんは言う。
「違うんだ、多分だけど、うん、まあそうだね、きっと彼はこの事態を一人でなんとかしようって考えてるんだよ」
「え? なんで?」
疑問が先に出てしまう僕だ。
その時、僕は、何を遠慮してるんだよ桃井くんとか、頼ってよ、とか思う前に、ちょっと寂しいって思っちゃったんだよね。
だから不意に口を噤んでしまう僕に辰野さんは、
「まあ、その辺は彼の口から聞いた方がいい、私が言えることでも無いからね、ただ一言私から言えることは、つまりは今の彼はそれだけ複雑な事情があるって事なんだよ」
と言うに止まる。もったいつけているって言う感じじゃなくて、なんか僕に気を使ってくれている感じがした。
本当に、辰野さんていい人だよね、麻生さんとも仲良いみたいだし、本当に組織のリーダーっぽい。ダンジョンでも有数の大きな組織を率いている訳だよ。
それでも真希さんとか酷い事を言っていて、今、このダンジョンに三大朴念仁ってのがいて、それが、この辰野さんと、あのクソ野郎さんと、僕なんだって。なんで僕? ってか朴念仁って何?
すると、僕の割とそばにいた葉山が、
「据え膳食べない人よ」
とか教えてくれる。
膳かあ、膳。
ああ、時たま嫌いなオカズを残してしまう傾向にあるってことかな?
って色々と食事の事とか、その辺で考えて、
「好き嫌いの多い人?」
って尋ねると、
「異性からの好意に鈍感な、どんなに女の子が頑張っても気持ちに気がついてくれない人ね」
とか言われる。
ちょっとピント来ないけど、何故か僕をジッと見る葉山の目がちょっと気になって、
「ああ、いるよね、そんな人」
実際には良くわからないけど、何と無く頑張ってわかっている程を醸し出してみる。
すると葉山はニッコリ笑って
「手強いなあ」
と微笑んでいた。
どうやら違うみたい。でもこれ、突っ込んで聞いたらダメな奴だ、って本能が言ってる。ここは微笑み返すに止まって流そう。
そんな折、外を警戒している薫子さんが、
「どんどん数が増してるな」
と言った。
外を見ると、多分、ギルドの本部で聞いた行方不明者の全部がここにいるくらいの数のゾンビが集まっているってくらい。
あっと言う間に、風の砦は取り囲まれていた。
その様子を見て、
「奴ら、焦ってるな」
と辰野さんが言う。
「はい」
と一心さんも同じ姿勢で外を見て呟く。辰野さんと一心さん、似たような姿勢で同じ窓から外見てるから、もうちょっと距離を置いてせめて違う窓から外を見ないとかないと、これじゃあ警戒にならないよ、って思っていると、葉山から、「邪魔しないの」って言われてしまう。
そして余計な事を考えて突っ込まれている僕に変わって、
「何か変化でも?」
と尋ねる雪華さんに、同じく外に警戒していた薫子さんが、
「お前たちが来てから数が増している、相手も、ここでなんとしても現状の硬直を崩してしまいたいのだろう」
と言った。
ひとまず、シリカさんのマップによると、多分、この原因になっているネクロマンサーはここからそんなに離れている距離にはいない。近くもないけど、だから、風の砦から、数階下がった、割と広くて落ちつるける様な場所に陣を構えていると言うのが大方の予想だった。
ちなみ当初の計画では、そんな場所、深階層ではそれ程の数もないので、2〜3箇所に絞られるって話で、近い順に当たってみようかって、風の砦の前に転移したらこのザマって訳だよ。
「敵にも、シリカ程でもない程度の、マッパーがいるって事ですね、こちらの動きは完全に把握されていると思った方がいいでしょう」
と角田さんが言う。
そうだよね、シリカさんだけがマッパーって訳じゃないからね。ダンジョンには相当数いる筈だし、敵にだっているよねマッパー。それにしても便利なスキルだよ、マッパー。
よくよく考えたら、僕の周りってこう言ったスキルのある人って少ない気がする、どっちかって言うと皆さん、力づくな人たちばかりで、荒ぶる敵には滅法強いけど、こう言った細かい索敵とか捜索って向いてない気がする。
そんな時だった。
ドン! と建物が揺れた。