第57話【死と敗北を知らぬ愚かなる王は恥も外聞も知らない】
気がつくと、結構な騒ぎになってきているみたいだ、この地下歩行空間のカフェテラスにも何やら人が集まってきている。そして確実に僕らにその目は集まり始めた。
すると、クソ野郎さん、
「お前が厄介なスキルを使うからだぞ」
って言う、本当に迷惑そうに言われる。
でも、僕の怪我を直してくれたお姉さんは、
「いえ、我が王よ、あなたが三度、ダンジョン内で自転車に乗ったからですよ、通報されていたんです」
って冷静に言われる。
「くそ、ぬかったな、今回は自動アシスト付きをやめて、マウンテンバイクにしたんだがな」
物憂げに呟くクソ野郎さんだった。
詳細は不明だけど、きっとそういう事では無い気がする。もっと根本的な事な気がする。
基本、北海道ダンジョンは乗り物の持ち込みは禁止されてる筈だから。
この人、何をしでかしたんだろう? ってかダンジョンで何をやってるんだろ?
ちょっと呆れてしまう僕に、クソ野郎さんは言うんだ。
「地下歩行空間警備室→警察→ギルドの三段コンボは目に見えているな」
って言ってから、
「よし、逃げるぞ」
迷い無く言われた。
でも、この4人、札雷館の人たち突っ伏したままだ。
彼らだけでもなんとかしないと、って手を差しのべようとすると、
「いい加減にしろ、そんな奴らほっとけ、お前は自分が可愛くないのか? 俺は自分が一番可愛いぞ、お前だってそうだろ? みんなそうなんだよ 世界で一番かわいいのは自分だろ? な?!」
こいつ、本当に正真正銘の純度100%のクソ野郎だ。ここまで突き抜けていると、尊敬してしまえるから不思議だ。
「大丈夫、同様に回復はさせました」
緑の美人さんは僕にそっと耳打ちしてくれた、なんだ、安心だ。
「ひとまず、二手に別れる、俺は札幌駅側に向かうから、お前は大通駅側に向かえ!」
まあ、春夏さんと角田さんに合流しようとしていたからいいけど、さあって思って自分の行く手を見ると、きてるよ、警備員さん、警察官、そして、ギルドのみなさん。
なんでギルドがわかったかって言うと、先頭を走っているのは真希さんだったからね。
「もう、あっち無理でしょ、僕も一緒に…」
って言おうとすると、すでにかのクソ野郎の姿は無く、もう札幌駅方面に走り出していた。
しかも、「犯人はあそこですよ、みなさん、あそこに座っています!」って、僕を指差し叫んでいる。
すげえ、すごい人だ。正真正銘のクソ野郎だ。
卑怯とか卑劣が高価そうなローブ着ているって感じだ。
さっき、ちょっと感謝してしまった僕の心を返せって言いたくなってしまう。
ここまで来ると、その非道具合に、爽快感すら感じてしまう。
そんな感動というか感心をしつつ、もう目の前まで走って来てるギルドその他の皆さんを見て、さすがにこれはヤバいかと思いきや、集合した人たち、追いかけている団体はギルドを先頭に、こちらの方には一瞥もくれず、一直線にクソ野郎さんを追いかけて行く。
「またお前か!、外でスキル使いやがって! このクソ野郎!」
って真希さんが叫んでいた。
なんだ、本当に本名が『クソ野郎』だったんだ。次に会う機会があったら、ちゃんと本名で呼んであげよう。
僕は、僕なんて無視して、ひたすらクソ野郎さんを追いかける一団を見送ると、ゆっくりと地下歩行空間を後にした。
よくよく考えると、僕、被害者じゃん。拘束されて頭を叩かれ、逃げる必要なんてなかったんだよな、って改めて思っていた。
そんな加害者の人の中にいて、それでも僕を心配してくれてた冴木さんは、もうすっかり立ち直ったみたいで、ちょっと惚けた顔して僕を見てたから、
「大丈夫ですか?」
って声をかけると、
「ええ、うん、はい、私達は平気です陛下……、真壁くん」
って言ってた、いやまだちょっとおかしいかな? 君島くんは異様に恐れてるみたいな顔してるし……。
まあ良いや、きっと寝ぼけてるのかもしれないし、強引にここは問題ないだろうって思い込む事にする。
札雷館の変態大学生に絡まれて、さらに変なクソ野郎に絡まれたけど、これが俗にいう『毒を持って毒を制す』ってやつかな、って考えていた。
もちろん、今の出来事なんて頭の中で整理できるはずもなく、ただ、思うのは……。
早くダンジョンい行こう。
って事だけだった。
あ、ゴミは持ち帰らないとね、って思って、折れたオンコの棒を拾って、その場を後にする僕だったよ。