第2話【僕は知らない幼馴染】
僕は僕の部屋で、今日から北海道ダンジョンへの挑戦の準備をしていた。
いよいよだ。
いよいよダンジョンデビューなんだ。
この日を、一日千秋の思いで待ってた。
千秋って、札幌の銘菓『千秋庵』じゃないよ、スノーマンとか美味しいけど、違うから、つまりジブラ的な? 首を長くして待ってたってことだよ。
本当なら、中学入学と同時にスタートダッシュ、速攻でダンジョンにいくつもりだったんだ。
でも、それがなかなか母さんから許可が出なかった。
結局、ほぼ一年待ってから、もう来月から新しい年度ってこの時期にようやく許可が出た。
ほら、僕は母さんに逆らえる訳なんてないからさ、ジッと耐えてた訳なんだよ。
未だに母さんに勝てないどころか、偶然とかでも、奇跡が重なっても、一本すら取れないってのは、いまだ気がかりだけどね。でも、そんな母さんも不満気だったけど許可をくれたんだ。
だから、今日がダンジョンデビューな記念すべき日なんだ。
逸る気持ちはあるけど、それでも冷静に、今日は浅階層でも地下一階の『スライムの森』で、ギルドの人から『スライム』の倒し方をレクチャーしてもらうだけなんだけどね。この辺の順路は踏んでいくよ。じっくりと攻略して、隅々まで楽しみたいからね。北海道ダンジョン。
武器とかも貸し出してもらえるから、普通に学校のジャージでスニーカーでいいから、準備なんてものもいらないんだけどさ。それでも、心構えとか、いろいろある訳で、ともかく室内で、そんな気持ちを練っていた。
「秋~!! もう春夏ちゃん来てるわよ!!」
下から母さんの怒鳴り声が聞こえる。
うわ、もう来たんだな、春夏
はるか
って人。
僕は慌てて、二階から一階に降りて、玄関に行こうとするけど、ああ、この階段じゃなかったって、もう一回階段を登って、反対側の階段を降りる。
この家ってさ、最近、建て直したばっかなんだよね。
しかも、どうせ建て直すなら、『ダンジョンに負けない青少年育成条例』のところによる、『ダンジョンウォーカー里親制度』の住宅規格に合うように作り直したから、無駄に大きくて、慣れてない僕は、自分の家で未だに迷う。
しかも、まだ誰もホームステイしてないから、ただ広いだけの家。
「何やってるの? 春夏ちゃん、待ってるわよ!」
って再び怒鳴られるも、その母さんと、春夏と言う、多分、僕にとってけっして初対面ではない人がいる玄関にようやくたどり着く。
そこには、いつもの顔した母さんと、その前に立つ春夏さんがいた。
玄関の土間に立ってるってのに、廊下側玄関の端部に立つ僕と同じくらいの背。母さんは僕よりも小さいから、最初はすごく大きく見えたよ。
僕と母さんって、姉弟くらいにみられるから、でも僕の方が身長は高いから。
母さん、初対面な人に、僕を息子です、っていうといつも驚かれるんだよなあ。実際、歳を取るのを忘れてるじゃないかって言われてたりもする。そんなかわいらしくてどこかホワホワした印象の母さんとか全く対局な人。彼女を見たときそんな印象だった。
その母さんは少し下がって、僕は春夏さんと対峙するみたいな格好になる。
真っ直ぐに向かい合う。
玄関を背にしてるからなのかな? その背後から光が彼女を包み込み、どこか神々しく見える。
身長差や体格でみると、母さんの方が幼く見える。実際、華奢だしね。
そして彼女は、僕を見て、すぐに笑ってこう言うんだ。
「ただいま、秋くん」
その顔はさ、とても端正で美人さん。
輝くようなストレートな黒い髪。腰のあたりまである。その整った顔立ち。
同じ歳って聞いてたけど、とてもそうは見えないくらいの体というかスタイル。
ずっと年上に見える。
出るとこ出てきた、引っ込むところは引っ込んでる感じ。
こんな言葉が合ってるかどうかわからないけど、とってもグラマラスな、そんなボディに、無色透明な存在感にただ圧倒される。
特に、今僕は、学校中、クラスとかって狭い範囲じゃないよ。
たぶん市町村クラスで、すべての女子に無視されてるって状況にあるから、今、僕と話しをしてくれる女子は、委員長さんくらいで、隣にも同級生いるんだけど、その子も巧みに避けているから、どうしたんだろう? とは思うものの、無視されている以上、聞いても答えてくれないわけで、気になったり、思うところはあったのだけれど、今は頭の中身がダンジョンでいっぱいだったから、そのうち解決するだろうなあ、くらいには思ってる。
でも、こうして久しぶりに女子と話すから、ドキドキしてる自分に驚く。
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