第25話【世界蛇の撤収、桃井くんの離脱】
今回も此花さんに助けられてしまった格好になったなあ。って思って此花さんを見ると、
「これがエクスマキナかあ、端も解析できないなあ、体の中に抗体化した請負頭をばら撒いたって事かしら、負荷も違和感が無いなあ、循環血液に乗せててるのかしら? 理にかなってるなあ、ああ、駄目、入って来た印象も、操作されている感じも無いなあ、いいなあ、欲しいなあ…あの子」
って羨望の眼差しで雪華さんを見ていた。本当に人って欲しいもの見ると指咥えるんだね。で、その雪華さんは、薫子さんとなんか話し込んでた。そしてその薫子さんは、
「すまん、真壁秋、病塊の存在は知っていたし、あいつらのこの利用方法は概ねギルドは確認していて警戒していたんがが、完全に虚をつかれた形になってしまった、いい様にされた」
と真剣な面持ちで言って来た。いや、別に薫子さんが責任を感じる事じゃ無いでしょ。
で、僕としても話に混ざって今度はその『世界蛇』について聞いて見た。
「このダンジョンでギルドが一番警戒している集団です、一番にはダークファクトな考えと常軌を逸した行動で問題視されていました、救われているのが深階層から出てこない事くらいで、最近は大人しかったんですが、事情が変ったらしく、どうも何かに刺激されているようです」
と雪華さんは説明してくれた。『刺激され』、っていうところで何か言いたげに僕を見てたけど気のせいだよね?
「へー」
って感心していると、今度は薫子さんが、
「一応は言っておくが、お前が現れた時は、お前もこの集団の一味では無いかと警戒されていたんだぞ、今でもそう思っている者は少数いるがな」
ええ? 僕が?
ああ、なんとなく、あの時ギルドの人が僕を見るなり敵認定して来た理由がわかった気がする。
ほら、僕ってどこをどう見ても正真正銘ないい人だからさ、人が良さそうって良く言われるしさ、いきなり敵認定もおかしいなあって思ってたんだよね。
それにしたって、僕くらい人畜無害なダンジョンウォーカーも珍しいだろ、って言いたかったけど、絶対に薫子さんあたりに何か余計な事言われそうだから黙っていた。
そんな僕に蒼さんも駆け寄って来た。ああ良かった彼女も無事だったんだね。彼女は最近、インフルエンザにかかっていて、感染はしたものの、大したことはなかったらしい。
その彼女がいうんだ。
「お屋形様、桃井氏が我々から離脱、先ほどの待機していた他の世界蛇の集団の中にその姿を確認しました」
と言った。
僕はその言葉を聞いた時、え? 本当? とは思ったんだけど、同時に『ああ、やっぱり』って思えたんだよ。
どうしてかって言うと、ほら、桃井くんの持っている杖だよ。あの杖の羽の生えた蛇がさ、さっきの連中の装備についていたリレーフと同じ蛇なんだよ。
もともと何かしらの事情を抱えてるって感じだったから、僕はあの時の桃井くんの顔を思い出したんだ。何かを言いかけたあの顔を。
僕はそんな桃井くんの、彼にしては珍しいくらいの真剣な顔を思い出して、深階層まで保留していいた問題が、ここに来て漸く形になって自分の目の前に現れた気がしたんだ。
心配そうに蒼さんは僕を見てるけど、まあ、いずれは解決させるつもりだったから、それでも僕としては桃井くんが何か言って来るまでは待とうと思ってはいたんだよ。
でも、桃井くんにも事情があるみたいで、結局何も言わないんだね。仕方ない。
で、僕は言った。だって、蒼さん、いかにも僕らの命令を待ってますって顔してジッと僕を見ているんだもん。
「蒼さん、『世界蛇』に関して調べてくれない?」
「御意」
と言って、またドロンって消えた。
最近こう言うのに慣れて来た僕がいるよ。
「いいのか? 奴らを調べるってことは奴らを敵に回すのも同意だぞ」
と薫子さんが言う、本当に心配しているって顔して、言うんだけど、僕をジッと見て、ため息をついて、
「これはギルドも覚悟を決めないとな」
って顔して、雪華さんの方に行ってしまう。
なんか大事になりそう?
んー、違うんかなあ、僕としては友達を心配した上の行動なんだけど。
まあ、ひとまずいいや、今日は葉山の武器だよ、武器。
あ、出発する準備してるの春夏さんだけじゃん。
て事は僕もまだだった、ちょっと待って、すぐ支度するから。