第24話【茉薙の成長、葉山の衝撃】
なんか、茉薙が、すっかり違ってて、もう、迷いも無く雪華さんを守ってるみたいな感じの頼りがいが半端ないって姿。
その動きとう言うか、様子がなんか主人の危機に警戒する番犬みたいな感じで、こんな状態の僕なんだけど、咳き込みつつ、発熱する僕だけど、ちょっと微笑ましかった。
「然るべき者に伝えておきなさい、もはやギルドはあなた達を放置しません、準備が整い次第、強制的行動に出ます」
その言葉を聞いて彼らはそのまま引いた。つまりこの場から去る。
「雪華! いいのかよ、あれ敵だろ?」
と今にも飛び出しそうな茉薙だ。
「茉薙、ダメ、行かせなさい」
と雪華さんは言うと、その顔をじっと見た茉薙は、
「はい」
って素直に返事して、剣を背に戻し、雪華さんの傍でそのまま待機を続行する茉薙だった。
その様子を見て、葉山が、だるそうな体もそのままに、
「茉薙が、あの茉薙が、『はい』って返事した、素直に従った、駄々こねないなんて」
って、病塊よりも、雪華さんが助けに来てくれた時よりも驚いていた。驚愕していた。葉山のこんな顔って初めて見たな、ってくらいの驚きぶりだよ。
「いいのよ、茉薙、放っておきなさい、今はギルドの意思を持って帰ってもらう方が大事なの、それに、あんな端末を倒したところで何も変わらないのよ」
きちんと説明する雪華さんに、茉薙はとても納得した様に、でもやっぱり少し不満げに、
「わかった」
と言った。
すると、今度は雪華さんが、
「私を守ってくれてありがとう茉薙」
すると、茉薙は大剣を背に戻しながら、
「そ!、そんなの当たり前だから、や、約束だから!、お、俺は雪華を守るから」
と言うんだけど、雪華さんに顔を見せない様にこっち向いてる茉薙の顔がニヤケてるのが丸見えだ。
「大丈夫かよ、秋先輩」
そう声をかけて来たのは相馬さんだった、一緒に助けに来てくれたみたい。
「災難だったね、真壁くん」
今度は鴨月くんだね。
「秋先輩、今、抗体注射しますから、もう少しジッとしててください」
って雪華さんが言った。で、『注射』って単語を聞いて、お、おう、ってなる僕がいる。
それから、僕らは雪華さんのメディックによっ治療させて、ちょっと待つと、体力も回復した。この回復も魔法スキルに寄るものね、角田さんが体に負担にならない様に徐々に回復するタイプの魔法をかけてくれたみたいなんだ。
ああ、なんとか助かった一息ついたなあ、って思って、小休止を取ってる。
その間、薫子さんと雪華さんが話していた。
それにしても、こんな状況に陥るなんて思いもしなくて、深階層の奥の深さを思い知った感じな僕だよ。
九首さんも病塊も最後に現れた人たちも、一つ一つなら何らかの対応手段があったとは思えるんだけど、ああもタイミング良く重なられてしまうと、恐ろしいくらいハマってしまう。本当に全滅の憂いもあったもの。怖いなあ、深階層、って思い知ったよ。
まあ、今回は、病塊を利用する特殊な集団が相手だったから、無理も無いって、思えるけど、その材料となる物はこの階層にあるって事だから、今後は要注意だね。
病気や感染症には魔法スキルとかの回復系が効かなくて、対抗できる手段って、まさにメディックしか無いらしんだけど、普通はここまで積極的に病塊が現れることってなくて、通常は、特定の部屋にトラップの一種として数個が浮いているだけって話らしくて、深階層組みのダンジョンウォーカーの中にはワザワザ小さく接触して予防接種の代わりにしている強者とかもいるらしくて、それほど脅威になるタイプの障害では無いらしんだ。
それでも、万が一、発病して重篤化した場合を考えて、ギルドはこの病塊の利用をダンジョンウォーカーに禁止している。ダンジョンからインフルエンザとか流行らすわけにいかないからだって。ダンジョンでこの病塊に接触してしまった場合、ギルドは必ず保健室への立ち寄りを義務付けているらしい。とういう必ず寄る。この場合潜伏期間とか無くてすぐに発病するから、積極的に保健室を頼るしかないのが実情だ。
それでも、世界蛇以外にも病塊を積極的に利用する者はいるらしい。たまにはあのちょっと壊れた集団、怒羅欣の人間が、どれだけインフルエンザの発熱に耐えられるか、おかしな挑戦に使っては、発病後ギルドの保健室に行って、処方と一緒にキツくヤキを入れてもらっているらしい。まあ、あの脳みそ筋肉な人たちなら普通の風邪って引かないよね。
あの時、椿さんがイジェクトした九首さんのお仲間の中に、今回、ギルドが最注意してる集団の『世界蛇』の人間が混ざっていて、薫子さんから連絡を受けていた真希さんが雪華さんに現地調査を依頼したら、こんな事になっていたんだって。本当に助かったよ。