第55話【平心にて狂乱する王は雑に全てを掌握する】
散切り頭に、釣り目で、いかにもって感じの悪そうな目つきに、どこか人を馬鹿いしたような笑みを浮かべた口。初めて見たときの印象はそんな感じだった。
でも、なんか違和感。
僕、どっかで彼と会った事があるかもしれないなんて、思い出せもしないのにそんな風に思うから、この接近と出会いに、嫌悪も恐れも感じる事はなかった、というより急になにすんだよ! くらいに思ったよ。
「誰?!」
思わず叫んでしまうと、その人、僕をこづいたであろう人は僕の顔をジッと見て、
「ん、ああ?」
って言ってその人は僕と同じように驚いた顔をして、僕の顔をマジマジと見つめている。
手には多分これで僕を小突いたんだと思われる剣なのか槍なのか、その中間なのかわからない大きな武器が握られていて、その石突きで僕の後頭部を突いたんだってことだけ容易に想像できる。
そしてその人は言った。
「お前、アレだろ? ほら、前によ、名前しらねーけどな? 誰だっけ?」
誰たっけじゃないよ、それこっちのセリフだから。
知り合いみたいに声をかけてきた。
痛いなあ、まだ叩かれた後頭部がジンジンしてる。
改めて見ると、その人、真希さんくらい、いや真希さんよりも少し大ききくらいの人だ。姿形からするとダンジョンウォーカーだよね。なんかローブ見たいな服きてる。
で、片手に僕を小突いたであろう、槍? にしては刃の部分が大きいような、でもその石突には彼のローブにつつまれた腕の中につながると思われる、長い鎖がつながれていた。
変わった武器だなあ、ってか変な武器って、その時は思ったよ。
「確認しろ」
その小さな人は言った。そしてその命令を受けた人はまた別にいた。
その彼の後ろにいて、彼の言葉で真にでて僕の顔をジッと見る。
「『王』を認定、確かに、『掌握』が使用されたようです、彼らが敵対者です、力の発生としては適当と言えます」
彼女は、全身を濃い緑のローブで身を包んだ、メガネをかけた女性。それがいつのまにかテーブルに突っ伏して冴木さんを含む4人をじっくりと観察する。
今の事態が全く飲み込めない僕がいる。
この人誰? 僕が一体何をしたっていうんんだ?
すると、ちっさな人。
「アホか、お前は、これだけ人通りの多い所で、こんな厄介なスキルを使う奴があるか」
今度は背中を小突いて来る。
僕は彼が何を言っているのか全く理解ができなかった。
だから本気でキョトンとしていたんだと思う。
「あれ? なんだよ、自分でスキルを発現させたわけじゃないのか?」
「そのようですね、彼は自身の能力に確証を得ていません、今回の『掌握』の発生は、自身の領土を守る為の、いわゆる外的衝撃に対する反射として発現したようです、使い方に問題はありますが、発生理由と発現の関係は適当です」
「ああ、そうか、俺と同じスキル形態、「だからクラスか? そんなもん持っているなんて不思議な感じだと思ったけど、なんだよ、自覚なしかよ、厄介だな」
って言ってから、
「今のうちに潰しておいた方がいいか?」
って、緑にメガネな女の人に聞いた。
「ダンジョン外なので少年法が適応されますが」
とだけ、その女の人からの答えに、チッ、と舌打ちをしてから、
「良かったなお前、命拾いしたぞ」
って言われた。
で、その人、冴木さんに近づいて、「まあ、浅いから大丈夫か」って言うと、緑の人は「浅いから問題ありと見た方が」「なんでだよ? こう言う場合は性格とかにもよるんだろう?」「だからこそ問題があると思うのです、歪んだ形で効果が現れた方が危険です」なんてヒソヒソ話をされる。まる聞こえだって言うのに、全く内容がわからないって言うのもイラっとした。
なんなんだよ、この人たち。
一体、僕が何をしたって言うのさ?
よく見ると、僕を中心に人が集まるというか、いままで普通に歩いていた人たちまで、僕ら、じゃなくて、僕に注目している。
しかも、それは、野次馬とかじゃなくて、なにか違う、価値あるモノを、まるで見つけられたような、そんな視線が集まってる。
そして、僕はその時、そんな注目を集めていて、それをある種の満足感みたいな、おかしな気持ちを湧き上ってしまっていた。
なんなんだ、これ?
一体、なんなんだよ?