表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/1335

第54話【僕の剣(として取り扱ってる物)が……】

 オンコの棒は、そのまま二つに折られて床に叩きつけられた。


 一瞬、唖然とした。


 そして僕は思った。


 ああ、僕の剣 (として取り扱っていたもの)が…。


 その時、僕は、まるで走馬灯の様に、この『オンコの棒』と繰り広げた数々の冒険を思い出す。 


 『地下狸小路』でコインたちと戦い、ギザ10に手も足も出なかったことや、そして偽札に叩かれた事、ドラゴンフライやドラゴンG (地を這う大型ドラゴンフライ亜種の僕らの呼称)に何度もたかられた事を思い出して、なんか、いい思い出ないや。


 まだ2回くらいしか使っていないんだよね。


 だから思いいれもなあ……


 割と本気で失敗したなあ……


 なんで短いヤツを買ったかなあ……


 ここまで使えないとなあ……


 買い直さないとなあ……


 でもあるうちはもったいないしなあ……


 もう少しくらいならこの短い『オンコの棒』でもいけるかなあ……


 って今ひとつ買い換える意思もあったようなないような、馴染んでないから自分のモノって自覚も無いし。


 だから僕の『オンコの棒』をへし折ってくれた君島に向かって、「貴様!」とか、「なんて事を!」なんて言うつもりが、色々な都合とか意思が統合されないまま思わず「あれ?」なんて間抜けな声を出してしまったよ。


 まあ、780円だしね。


 君島に折られる程度なら、この辺が寿命だったんだなあ、って思ってしまった。


 オンコの木って硬いけど、やっぱり木の棒には違いないってことだね。


 「君島くん、なんて事を!」


 って冴木さんの方が怒ってくれた。


 「だって、師範、このガキがちっとも話を聞くような態度じゃないから」


 なんて言ってるけど、その通りだよね、僕、彼らの話なんて聞く気ないからね。


 それでも冴木さんの怒りを見て、漸くここにきて『オンコの棒』をへし折られた事はなんかジワジワ腹立って来たけど。


 でも冷静に、僕は怒る冴木さんと怒られる君島を見ているわけだけど、なんか変な感じがある。


 これはかつて経験したアレだ。


 この君島に初めて出会った時、あの邪魔された時の感覚だ。


 まただ。


 またあの感覚が来た。 


 こいつら、僕の持ち物を壊したんだ。


 そして今日も、僕から春夏さんを奪おうとしている。


 そう自覚した時、あの時の赤黒い感情が、僕の奥底から噴き上げて来た。


 怒りでもない、まして自身の正義っていうのもない。


 でも、その噴き出る感情が教えてくれるのは、ただひたすら、『領地』を侵す者に対しての『暴力』の執行を行う為の『力』があるって事をだ。


 あの時、僕は春夏さんの顔を見て、この衝動を抑えることができた。


 なんか、いけない事をしているみたいに思ったからだ。驚いた顔、それから春夏さんの少し戸惑いながらも、悲しそうな顔を思い出した。


 でも今日は春夏さんはいない。だから、もう遠慮もいらない。


 僕を諌める為のあの厄介な()()もいない。


 ん? 賢者って誰の事だ?


 自分の思い付いた言葉に疑問を持ってしまう。


 僕の変化にいち早く気がついたのは、冴木さんで、本当にヤバイものを見た顔をしていた。


 「真壁くん、どうしたの?」


 って声を出せたのは流石に婦警さんで、それなりの『強さ』を持っている人だって思う。


 まあ、僕には通用しないけどね。他の3人なんて完全に怯えている。特に君島なんて、あの時の事がトラウマみたいになっているようで、他の2人よりも怯え方が激しい。


 それを見ていて思ったね。


 なんだ、こんなやつら簡単じゃないか、って。


 ほら、冴木さんも抵抗しきれないで、胸元を抑えて苦しそうな表情を見せ始めた。


 気がつくと、その辺にいたダンジョンウォーカーの人たちも、僕らのいるあたりに注目

して来ているけど、もう構う事はない。


 僕は楽しんでいたんだ。


 自分の中のこの力を思う存分顫えるこの状況に歓喜していた。


 未だ漏れるように噴き上げる感情に僕は、贖う事なく、その上に乗っかった常識とか理性なんて言われる蓋を外そうと、その力を全て解き放とうとした瞬間だった。


 後頭部に衝撃が走る。


 ゴン! って感じ。


 続いて、痛み。


 「痛た!」


 思わず叫んでしまうくらいの痛み。


 その衝撃がやって来た方向、つまり僕は振り向いて見たら、知らない人がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ