第53話【春夏さん返却交渉決裂、徹底抗戦宣言!!】
バカって何も考えていないから、楽しく生きてるよね、君島君さん。
「ともかく、真壁くんが春夏をそそのかした『悪人』って事になっているの、このままだと危ないのよ、君島くんなんかよりももっと過激な人たちもいるわ」
って本当に切ないって言うか恥ずかしいって言うか、それでも切羽詰まって冴木さんは言った。
なんか、更に彼女に同情してしまう僕だ。彼女は本当に困っていたんだ。だから、これは警告であって脅かしじゃあない。
春夏さんがダンジョンに通い続ける限り、君島以上の変態に絡まれる。しかも命まで取ろうって奴までいるらしい。このままでは僕の身の保証はできないから、ちょっとだけでも顔を出すように春夏さんに言って欲しい、これが多分、冴木さんの出した最もいい落とし所で、その条件は決して難しくないはず、春夏さんにそう働きかけるだけでもいいの、って感じだった。
だから、僕は言った。
「お断りです」
「でも、それじゃあ、真壁くんが!」
とっても危険って事なんですよね。
「じゃあ、それで良いです」
「え?」
冴木さんは、僕の言葉の意味がわからなかった。って言うか、彼女が用意した僕から出るであろう答えの中の選択肢の中にはなかった言葉で、まさに彼女にとって現状をさらに最悪の物にするような言葉に心底驚いているようでもあった。
だから、それで良いんだって。
もう1回わかりやすく言うよ。
「だから、春夏さんが僕のダンジョン仲間だと、それが面白くない人たちが僕に襲いかかって来るって言う事を言いたいんですよね? じゃあ、それで良いです」
「ちょっと、真壁くん、何を言っているの?」
「だから、それでいいんですよ、春夏さんは、ダンジョンやめたくない、この人たちは、じゃあ僕を襲う、で、僕も黙って襲われようなんて思ってない、このまま行くしかないじゃないですか?」
もうね、誰も彼もこの件について我慢なんて必要ないんだって、僕は思っている。
それに、ちょっと人をいたいけな中学生を脅せば言うことを聞くなんて考えている人にも呆れる。
それで自分たちの我を通るなんて思っている事も腹立たしい。
春夏さん、何も言わないからわからないけど、ずっとこの問題に頭を抱えていたんだなあ、って思ったら、なんかこの君島って奴に対して、本当に対峙してやろうか、って思ってしまった。
それと、あれだけ強い春夏さんを、母とその心の友達(春夏さんのお母さん)からよろしく頼まれたのは、こう言う事だったんだって、改めて思った。
「俺たちと事を構えるって言ってるんだな!」
って君島くんは言った。
なんか本当に嬉しそうだった。
「これだけは言っておくけど、万が一僕をやっつけた所で春夏さんは戻ってこないですよ」
だから、これは脅迫じゃあないよね、多分、八つ当たりだと思う。
そのものズバリを指摘されて、君島くんは、
「俺はこんな棒切れで遊んでいるガキは大っ嫌いなんだよ」
って言って、僕がなんとなく椅子の横に立てかけていた、『オンコの棒』を取り上げると、自分の膝を使って、ベキって折ったよ。この人、人の持ち物を勝手に取り上げて、壊してしまったよ。
その時、僕の脳裏には、このオンコの棒とともに幾多の冒険を、危機をくぐりぬけた……って事も特にないしなあ、って思ってたから、気持ち的にも「よくも僕のオンコの棒を!」って心境も無くて、ただ、思わず出てしまった言葉は、
「あれ?」
って言う自分でもどう受け止めていいかわからに現状に、呟くような疑問はどこにも向かうこともなく、ただ、地下街の雑踏に混ざり消えていったんだ。