第1話【深階層への階段】
4丁目ゲートから、一回くらいはきちんと階段を使っって、北海道ダンジョン全階層行ける様になったからさ、ゆっくりと自分の足を使って、浅階層から中階層、そして深階層に一度くらいは向かってみようなんて思って、計画を立てて見て、行きは徒歩で帰りは他のゲート近くのエレベーターを使ったりして、1日掛で行程を組んで見たんだけど、その時、たまたま、一緒に行けるのが葉山しかいなくて、一応、予定を聞いて見たんだけど、
「真壁と二人っきりって、何かムラムラするね」って笑顔で言われて、その葉山、ちょっと考えてから、テヘペロコツン見たくなって、「ごめん、ドキドキするの間違いだった」とか言ってた。
うん、そうだね、だいぶ違うね。
以前、葉山は寝込みを襲われてから、自然と警戒する様になってしまった。
そんな雰囲気とか伝わったんだろうか、葉山は。
「だって、あの時は春夏に出し抜かれた形になったから、私としても焦っているの、こう言う気持ちを汲んでくれるのだって、男の子の大切な事だよ」
とか言われる。
そうなんだよね。
あの日、例の『おっぱいロード』の行き着いた先に、その問題の部屋に待っていたのは春夏さんだったんだよね。
扉開けたら、本当に当たり前の様に春夏さんがいた。
あれ? なんだろ、これ? って思う前に、
「秋くん帰ろ」
って言われて、手を引かれて帰ってきたって次第で、正にキタキツネに摘まれた様な気分だったんだ。まあキタキツネは人なんて騙さないけどさ、エキノコックスで本気で人を殺しに来るから、藻岩山観光道路とか、札幌から近いところで野生のキタキツネを見かけても絶対に触れないようにね。
それはともかく、結局、あの時、その場所にたどり着いたのは僕だけで、他のギルドの子達と土岐は途中で脱落してしまった。
その中でも意外なのは土岐の早々の脱落で、途中にさ、敵としてあの悪魔の花嫁さんが現れたんだ。
ああ、中階層と言っても結局は深階層なんだなあ、と、しかもあのリリスさんまで敵に回ってくるなんて、ってそれなりに覚悟を決めた僕たちだったんだけど、その時さ、土岐が言うんだ。
「あいつが用があるのは俺だ、お前らは先に行ってくれ」
まるで、自分がここにいることが過ちであることに気が付いた様に、ガチに悲壮な顔して叫んでた、確かにその道の上に立つ悪魔の花嫁さんの怒りというか、憤りの雰囲気は、僕が見ても並々ならない物があって、あの時は味方で頼もしい限りだったけど、敵に回ってしまった事で、こんなに恐ろしい存在になるとは思いもしなかった。
「無理だろ、土岐」
って言ったんだけど、その土岐は言うんだ。
「いいか、ここから熾烈な戦いが始まる、わかるんだ、あいつは絶対に俺を許さない、絶対に後ろを振り向くな、俺に何があっても構わず行ってくれ」
って僕らの背を押した。
そして土岐の言った通り、リリスさんは僕らなんてまるで構わない様にその横を素通りできる。
「振り向くな、真壁、行ってくれ!」
これが土岐の僕らに向けた最後の言葉だった。
僕らは土岐の言う通り振り向かず行こうとするんだけど、でも、だってさ、心配だし気になるじゃん。で、チラッと振り向いちゃったんだよね。
そしたら、土岐、リリスさんが仁王立ちする、その正面で綺麗に正座してるんだよ。
声はあんまし聞こえなかったけど、「いや、違うんだ」とか「誤解だ」「誰かとかじゃないんだ」とか言っているみたい。リリスさんは黙って聞いている感じ。
一体何が起こって、この二人の間に何があるのか全くわからない僕だけど、これだけはわかるんだ。これ多分、僕ら部外者が口を出したらいけない奴だ。
だから、そのまま土岐が正座から土下座に変わるまでの間、何も言わずにただ黙ってその様子を見守っていた。
また正面から敵もきたしね。さようなら土岐、君の分まで僕らは前に進むよって感じてちょっとは心配だったけど、この場合の心配は余計なお世話になっちゃいそうで、ほら、良く言う、『犬も食わない』的な? だったんで構わず行くことにした。