閑話7−11【浸食される深階層】
もちろん、この暴露はどのような結果をもたらすのか、など狙って行っている八瀬である。彼女自身の力はここにいる誰よりも低い、が、その知略はここにいる誰よりも長けているのだ、と言うより、この底意地の悪さに対抗できる者など、今のところこのダンジョンにはいない。結局この場は八瀬によってコントロールされようとしていた。
そして、今度はそんな様子を見て鮫島は大笑いする。
「なんだよ、お前の所も『多月』に喰われかかってんじゃねーか」
その鮫島に八瀬は、
「いやいや、鮫島先輩、何を他人事みたいに言ってるんですか?」
不意に自分に話を振られて不安になる鮫島も、D &Dの内部事情にはそれなりのショックは受けていると言う事だ。
「な、なんだよ?」
「いや、先輩の所の構成員、半分くらいは『真壁秋ファンクラブ』を名乗る狂信者ですよ」
「はあ?!」
「いや、はあ? じゃなくてマジですよ、エビデンスありますよ、提供しますか? タダじゃないですけど」
先程までゆったりと態度のデカい姿で座っていた鮫島も立ち上がる。
「いや、ちょっと待ってくれ」
「いやだなあ、鮫島先輩はあの勢力から完全敵認定ですよ、ほら、例の浅階層での事件を思い出してください、あの時、蒼ちゃんを出し抜いて、うちにいた九首と浅階層で桃井くんを消そうとしたでしょ?」
「あれは、騙されてたんだよ、俺も被害者だ」
「その言い訳が通用するといいですけどねえ、現在もあなたの組織から有用な情報を吸い上げて、《秋の木葉》に報告してる筈ですよ」
流石にそんな話を聞いていた、D &Wの此花椿すらも薄ら寒さを覚えた。
「じゃあ、何、『闇の軍団』とやらは、その真壁秋を取り巻く勢力は独自の判断で動いているということなの?」
「ええ、事前も事後の報告も無いって話ですよ、常に真壁秋への障害を取り除き、敵対するもののを調査し続けて、時には排除して、ほぼほぼ自動的に処置しているって話で、最優先は真壁秋本人の命令らしいです、彼命令なんてしませんけどね」
「自動的にって……、なにそれ、もうなんか、ダンジョンウォーカーっていうより魔王じゃ無い」
妹のそんな呆れた顔に、その出てしまった言葉にここにいる全員が納得する姿に、思わず吹き出しそうになる姉、牡丹であった。
このここに出される真壁秋という人物の評価とそして現実を知る牡丹の中の真壁秋。
「流石です『笑王』ギャップが美味しい」
と呟く。
その小さな言葉をかき消す様に誰かの歩む音。
コツコツとこの固い床を鳴らす音が響いて来た。
新たな参加者が声を上げた。
入り口のあたりから、ゆっくりと入るその姿は、まるで敬虔な信者にして信徒、そして聖母の様な出で立ちでもあった。
一心が腰の刀に開いた手を置く。
その仕草を制するのは辰野であった。
一心からその聖母の様な出で立ちの女の距離は会議室の端から端。10m以上ある。
だが、一心の刃はたやすくその距離に届く。
「君を呼んだ覚えはないのだが」
と辰野は言った。
するとその女は、深く頭を下げて、
「これは、皆様お揃いて、なにやら楽しい催し物をしていると伺ったもので居ても立ってもいられなくなってしまいました」
このダンジョンの中で唯一無二の宗教集団。
『世界蛇』ユルムンガンドの司祭であり、この教団を現在事実上まとめ上げている女性で、フアナと名乗っていた。