閑話7−10【真壁秋と闇の軍団】
高回転で回る思考と、その底意地の悪さが徐々に、この会議室全体に行き渡っていることを確認する様に、鉾咲八瀬は軽くその面々を見渡す。
ニヤニヤが止まらない弱者を気取る知恵者は一瞬の辛辣な表情と視線を会議室に走らせてこう言った。
「だいたいさ、諸先輩方、忘れていませんか?」
「なんだよ、まだ他にあるのかよ?」
「真壁秋には、それに連なる『闇の軍団』と『狂信者達』がいます、アレはマジでヤバいです、ほら、全く手が出せなかった鮫島先輩、よく知ってるでしょ、多月の人たちとかですよ」
言われた鮫島は思わず苦い顔をする。
「彼らに一度敵認定されると、このダンジョンでは活動できなくなりますよ、それにそんな彼らがどれだけの手荒な事をしても『狂信者』達がそれをもみ消しますからね、ダンジョンどころじゃなくて、政治にすら干渉してますからね、どこかの国の軍隊を敵に回して全滅させてますよ、もちろん、こんなニュース聞いた事ないですよね、小樽ふ頭での出来事でしすよ、ものの見事に揉み消されてます」
その言葉を聞いて、流石の鮫島も、
「バケモノかよ……」
と、たった一言つぶやいた。
そして、驚くというか呆れて辰野も呟いてしまう。
「なんでそんなのが中階層でダンジョンウォーカーをやっていたんだ? このダンジョンの覇権を取るなど容易では無いか」
すると八瀬は言う。普通に簡単に、衝撃の事実を告げた。
「いや、その辺わ僕に聞かれてもなあ〜、あ、そうだ、一心先輩、何か聞いてませんか?」
と。
これには辰野も驚く。
「? どうして彼女に尋ねるのだ?」
思わず、自分の傍に立つ、美しい凄腕の侍を見つめる。
彼女はいつもと変わらぬように、微笑み静かにただ寄り添うようにそこにいる。
だから、なのだろう、八瀬は言った。
「だって一心先輩、真壁秋の闇の軍団、《秋の木葉》の人ですよね?」
一瞬、会場は異様な騒めきを見せる。
そして、一心浅葱は八瀬の言葉に簡潔に答えた。
「はい」
と、一言だけ。
辰野はこの時、座っている椅子からずり落ちそうになった。ズッコケると言う醜態を晒しそうになった。
「いや、ちょっと待ってくれ、ハハ、それはなんと言うか…」
衝撃の事実に思考が追いついていかない辰野であった。
椅子からずり落ちそうになっている辰野を一心はそっと支える。
「本当なのか?」
いつもと変わらぬ表情に、いつもと変わらぬ態度。一心浅葱はまるでそんな衝撃の事実を暴露されても全く気にする様子もない。
「どうして?」
と辰野は問う。
「そのように生まれたものですから」
とまるでそんな些細な事と言わんばかりに一心は辰野の体をそっと支えながら言った。
「君は俺を、いや組織を裏切っていたのか?」
自分でも面白いくらい狼狽えている辰野である。そんな辰野に、まるで罪の意識など無い風にこの組織の事実上のNo.2は言う。
「いいえ」
確かにそうだ。それは間違いない。
自分と、この一心浅葱がこのD &Dに入った時から、いやそれ以前から行動を共にしていた。
お互いがまだダンジョンウォーカーとして日の浅かった時からの仲間だ。
辰野の前の責任者から地位を譲り受けたときも、一人では無理だ、と言う辰野を献身的に支えてくれたのは他ならないこの一心浅葱だった。
だが、だからこそシコリというか違和感はある。裏切っていはいないとは辰野は思う、いや確信している、だが、この衝撃の前に、どうしようもないほどの動揺は隠せないでいる。
そんな様子を見て八瀬は言った。
「あちゃ〜、こりゃあ、D &Dの組織も崩壊かなあ、しまったよ、つい言っちゃったよ、ごめんね口がすべっちゃったよ、反省反省」
もちろん、これを言う八瀬の顔は、かなり嬉しそうで、それは廻りの見た目にわかる。
確かに組織のNo.2が離反するともなると、かつてD &Wの中で起こった粛清騒ぎどころでは無い。下手をしたら組織は真っ二つである。