閑話7−9【真壁秋なんざ、ぶっ潰せ”】
これは流石に、主催者の立場の辰野が口を挟んだ。
「呑気に言い争っている場合じゃないんだ、これは前代未聞の出来事なんだぞ」
「たかが一人のダンジョンウォーカーじゃあねえか」
鮫島が言い返す、しかし、
「そうだ、たかだか一人のダンジョンウォーカーだ」
辰野が言った。
「そして、ここにいる誰よりも強力で規格外なダンジョンウォーカーだ」
「じゃあよ、サクッとここにいる全員で総合軍でも送って、いまの内に痛めつけるか? 俺達とお前のD &Dで行けは、茉薙には対応できてたじゃねーか」
一時期、葉山静流がこの深階層で薬代の為に荒稼ぎをしていた事があった。
当時からどこにも所属する事なく一人でモンスターを狩り、一人で高価なドロップアイテムを独占するかの行為に危惧した彼らは、一度だけ共闘して葉山静流に対して挑戦、とまでは行かない程度の抵抗を試みた事があった。
その時に、鮫島の言う通り、D &Dと黒の集刃と共闘して一軍を作って抵抗勢力とした。
そして、その時は、この鮫島目線では、流石の茉薙(静流)も、これだけの深階層のダンジョンウォーカーに囲まれては勝ち目が無いと悟って引いた、と捉えているが、事実は、常識的な人物である葉山静流が、彼らをここまで追い込んでしまった現実を反省して、気を使ってその場は引いたのである。当時の茉薙と静流の能力ならあの場で全員を瞬殺するのは容易いと判断されていた事実を彼らは知らない。
そんな事実を知らない辰野と鮫島としては一応の対応手段はあると、そこで一つの答えにもなっていない結論じみた形になって、何かはできそうな、そんな空気が漂い始める。
しかし、そんな空気を、安心安堵を真っ二つに引き裂く笑い声。
鉾咲八瀬が大笑いしていた。
「いやー、諸先輩方、面白いなあ、あの真壁秋にヤキを入れるんですか? すごいですね、若輩な私に教えてくださいよ、どうやるんです?」
すると鮫島は、
「俺たちには、潜伏して気配を消して仕事ができる奴らも多い、D &Dも同じく、音も立てずに目的を果たす事ができる奴らもいる、どうとでもなるんだよ、たった一人のダンジョンウォーカーなんぞな」
と言い切った。
しかし、八瀬は笑い続ける。
「へえ、そりゃあ、凄い、そんな凄い人がいながら、先輩方はあの『多月蒼』一人に対応できていなかったじゃ無いですか? 笑える、蒼ちゃんが抜けるまで、自分の組織も取り返せなかった人が、その蒼ちゃんを臣下とする真壁秋にヤキを入れるなんて、正気の沙汰じゃ無いですよ、まともじゃない、面白すぎる、なんか変な物でも食べたんですか?」
流石にこの言葉に何も言い返せなくなる。
それでも辰野は言った。
「君はどうしたんだ? 何度か真壁秋の勢力とはやりあっているんだろ?」
すると、八瀬は、
「無理です、あれは絶対に無理ですよ、本人もそうですが、廻りも凄いので固められてますからね」
「外から強力な魔法を打つとかダメ?」
椿が言ってみる。もちろん、そんなつもりはない。
「角田大先生がいますよ、多分、彼一人で、ダンジョン内の、D &Wさん達の言う所の魔導師は全員、対応が可能と言うより、待ちの状態からの迎撃されて終わりですよ」
「うん、それはわかるわ」
そう言って、納得するも姉の牡丹と私がいれば対応も可能だろうと言う算段はある椿であった。が口に出すことはなかった。なぜなら姉の気にいる子に対して敵対する意思など最初からありはしない、ただ、D &Wですら手を出すのを躊躇う相手だとここにいる人間に思わせた方が余計な邪魔も入らなくて良いと思っている椿でもある。